018.勇者パーティー、絶不調?
陽炎の孤城、1階。
並び立つ伽藍洞の甲冑──暗黒騎士の軍勢を前に、私は、槍を振るっていた。
暗黒騎士は、高レベルモンスターであり、耐久力に優れている。
だが、私の前では、そんな鎧など、紙くずに等しい。
「はぁあああっ!!」
私のユニークスキルである【闘気覚醒】を込めた槍で、暗黒騎士に突きを放つ。
ちょうど胸の当たりを貫かれた暗黒騎士は、そのまま動かなくなった。
これで、10体目。私個人としては、それなりに順調と言っていいだろう。
しかし……。
「はぁ……はぁ……うわっ!?」
「ちょ、ちょっと、詠唱する時間が……!!」
これはどういうことだろうか……。
先ほどから、パーティーのうち、2人のメンバーが全く機能していない。
1人は、魔術師のメグ。彼女は、さきほどから、呪文の詠唱を始めようとしては、敵に距離を詰められ、逃げる、ということを繰り返していた。
まあ、このモンスターの数だ。魔術師が魔法を放てる余裕を作れないのは、前衛のせいでもあるので、そこはあまり責められない。
だが、もう1人のメンバー、ヴェスパは別だ。
彼のナイフによる攻撃は、暗黒騎士の鎧を全く傷つけられていなかった。
自慢だというスピードも、正直言って、盗賊としてはギリギリ及第点か、いや、むしろ少し遅いくらいであり、さきほどから、それほど素早くはない暗黒騎士達の攻撃から逃げ回っている。
当初聞いた話では、彼は、俊足を持って敵を翻弄し、魔術師が魔法を放つ時間を確保するという役割だったはず。
はっきりいって、まったくその役割を果たせていない。
「仕方あるまい……」
私は、大きく跳躍すると、彼が担当するポジションへと降り立った。
「セシリア!」
「私が時間を稼ぐ。詠唱を」
「う、うん……」
さすがに数が多い。
この場は、魔術師の広範囲魔法で、一気に殲滅してもらう方が、消耗を抑えられる。
私が壁になると、メグはようやく、詠唱を開始し出した。
メグの詠唱が終わるまで、私が彼女の盾になる。
ソロでの冒険が中心だった私としては、慣れない行為だが、やってできないことはあるまい。
「セシリア嬢!! 俺も手を貸すぜ!! うぉおおおおおお!!」
そう叫んで、目の前の暗黒騎士へと突進していくヴェスパ。
この男、まだ、自分の攻撃力では、騎士の鎧を貫けないことに気づいていないのか……?
案の定、鎧に弾かれたヴェスパが、騎士達の集中砲火を浴びる。
「ひ、ひぃいいいいっ!!」
「うぉおおおおおおっ!!」
私はその中心へと飛び込んで槍を振るう。
なんとか、敵を押し戻し、ヴェスパの首根っこ捕まえると、後方へと投げ捨てた。
「あひぃいいい!!」
「手間を取らせるな」
だが、今ので少しは時間を稼げた。
もう間もなく、メグの魔法が完成するはず。
再び進撃を開始した暗黒騎士達を、私はなんとか抑えつける。
「くっ、まだか……!?」
どうやら、メグはかなりの大魔法を詠唱しているようだ。
すでにかなりの時間が経過している。
このまま敵を抑えつけておくのも、そろそろ限界だ。
と、その時、ようやく後方で、激しい光が迸った。
メグの魔法が完成したのだ。
私は、慌てて、魔物達から距離を取る。
さあ、今だ。放て。
「エクスプロージョン!!」
赤い炎の架線が暗黒騎士達の中心へと叩き込まれ、火花が上がる。
だが……。
「えっ!? なんで……!?」
メグの戸惑いの声が響く。
それはそうだろう。
彼女が放った爆発系の呪文。
その直撃を受けた暗黒騎士達は、鎧を赤く染めながらも、まったく意に介した様子もなく、こちらへと歩んできていた。
完全な火力不足……あんなに時間をかけたというのに、なんと非力な……。
「どうして、いつもだったら、もっと……」
「下がっていろ!」
こうなったら、もう、私が何とかするほかない。
「うぉおおおおおおっ!!!」
迫りくる暗黒騎士の群れに向かって、私は、気迫を込めた槍を突き出したのだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
暗黒騎士達の屍の山を背に、私は槍を支えにして、息を整えていた。
結局、ほとんどの暗黒騎士を、勇者リオンと私の2人だけで倒すことになった。
勇者リオンの実力は、それなりのものだったが、ヴェスパとメグの2人の実力は、完全に落第点だ。
なぜ、こんな2人がいて、Sランクパーティーに昇格することができたのか。
はっきり言って不思議で仕方がない。
「お前達、何をやっている……」
私と同じく、息を整えていたリオンが、ヴェスパとメグに詰め寄った。
戦闘中、少しも活躍できなかった2人は、リオンの剣幕に明らかに動揺していた。
「す、すまねぇ、大将! なんだか、今日は調子が上がらなくてよ……」
「わ、私も! なんだか、調子が悪くて……」
調子が悪い?
いや、傍から見ていた立場から言わせてもらえば、あれは調子の良し悪しなんて問題じゃない。
己の能力だけではなく、状況の判断力など、総合的に見た上での、完全な実力不足だ。
だが、2人は本気で、それをただ、調子が悪かっただけだと思っているようだった。
「そ、そうだ! 聖女様よ!! あんたがもっとしっかりバフをかけてくれていれば……!!」
ついにはそんなことまで言い出す始末。
聖女エリゼは、この戦闘中、背後から忍び寄ってくるアンデッドたちの相手を一人で受け持ってくれた。
彼女の聖属性魔法がなければ、このパーティーは、とっくに後方から魔物達に蹂躙されてしまっていただろう。
そんなことすらわからないとは……。
「す、すみません。なかなかノルのようにはいかなくて……」
「謝るな! エリゼ!!」
激昂したのはリオンだった。
彼は、鬼のような形相で、ヴェスパの胸倉をつかんだ。
「た、大将……!?」
「リオン様……!?」
「パーティーがこれだけピンチに追い込まれたのは、貴様の責任だ。これ以上、下らん妄言で、エリゼを貶めるな!!」
おそらく、こんなにリオンが感情を表すことは稀なのだろう。
ヴェスパは、一瞬呆然としたものの、すぐに、その顔面が蒼白になっていく。
隣に座りこむメグの瞳には、じわりと涙すら滲んでいた。
「ほ、本当に悪かった、大将!! 自分の不調を聖女様のせいにして……!!」
「もういい。お前の本業はトレジャーハントだ。そちらの方で、貢献してみせろ」
「あ、ああ!! 任せといてくれ!!」
一応、この場は収まったというところか……。
だが、攻略はまだ続く。
果たして、このちぐはぐなパーティーで、ダンジョンの最奥までたどり着くことができるのだろうか。
私の胸中には、いつしか大きな不安が膨らんでいた。
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