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017.精霊術士、順調に滑り出す

 さて、冒険者が攻略をするダンジョンについて、少し説明をしておこう。

 ダンジョンには、主に2つの種類がある。

 一つは、フィールド型ダンジョン。開放的なダンジョンであり、山や谷、森なんかがそれに該当する。

 もう一つが、箱型ダンジョン。閉鎖的なダンジョンであり、洞窟や城、塔など、外部の環境と隔絶されたようなものが該当する。

 中には、その中間のようなものも存在するのだが、基本的に、街の近くにあるほとんどのダンジョンが、この2つのどちらかだ。

 どちらのダンジョンも最終的な目的は同じであり、最奥にいるボスを倒し、ボスのドロップするお宝を持ち帰ることが、それだ。

 ボスのドロップするお宝は、基本的にはランダムであり、数種類の中から選ばれることになっている。

 最初に、チェルと初級ダンジョンを攻略したときも、ボスから歌姫の髪飾りというアイテムをゲットすることができた。

 その髪飾りは、僕が今、装備している。手に入れた時は、まさか、僕が装着することになるなんて、思ってもみなかったけれど……。

 まあ、それは良いとして、今回、攻略することになる【迷霧の密林】はフィールド型ダンジョンに相当する。

 フィールド型といっても、ダンジョンに該当する以上、そこには入り口というものが存在する。

 それが、僕らがさっきくぐった光のゲートだ。

 あのゲートをくぐることが、ダンジョンの挑戦開始の合図であり、ゲートをくぐった瞬間から、僕らは、密林の魔物達から、明確に敵として認識される。

 というわけで、さっそく僕らの目の前には、魔物達が迫ってきていた。


「さあ、パーティーでの初戦闘よ。派手に行くわ!」


 剣を振り上げたチェルが、大仰に構えを取る。

 同じく、その後ろでは、コロモが緊張を感じさせつつも、杖を構えた。

 僕も一番後ろで、冷静に敵を分析する。

 やってきたのは、灰色ウルフという、森の魔物としては比較的よく見る類の魔物だ。

 機敏な動きを得意とし、仲間と連携して、じわじわと冒険者たちを追い詰める戦術を取るのが、この魔物の特徴といえる。

 事実、今も、6匹ほどの灰色ウルフが、一気にこちらへと向かってきていた。

 扇状に広がり、僕らを取り囲もうとしている。


「先制攻撃だ。コロモ」

「は、はい、師匠……!!」


 コロモが杖に魔力を通す。

 正式なパーティーメンバーになってからのこの数日間、僕はコロモに特訓を課していた。

 それは、魔法の速射性をあげること。

 魔術師が魔法を練り上げる時間の長さというのは、戦闘の勝敗を左右する重要な要素だ。

 当然、大魔法ほど、発動までに長い時間を必要とする。

 しかし、コロモが使うのは初級魔法であるファイヤーボール、ただでさえ、発動までの時間があまりかからないこの魔法をさらに高速で発動できるようになれば、どうなるか。


「ファイヤーボール!!」


 ほとんど無詠唱とも言えるほどの時間で、コロモが走りくるウルフたちに向かって、ファイヤーボールを放った。

 速い。おそらく、ファイヤーボールという魔法に限れば、魔術師の中でも最速クラスだろう。

 ユニークスキルの力によって、魔力の属性と波長に指向性が持たされている彼女は、多少魔力の練りが甘かろうが、ファイヤーボールであれば、確実に成功させることができる。

 まさに、彼女の特性を活かした、スピード戦術であると言えた。


「きゃん!?」


 おそらく魔物側も、こんなに瞬時に魔法が飛んでくるとは予想していなかったのだろう。

 先頭を進む一匹の顔面にダイレクトにぶつかったファイヤーボールは、そのまま灰色ウルフの全身を焼き尽くす。

 うん、威力も申し分ない。

 コロモは続けざまに、同じ威力のファイヤーボールを飛ばし続ける。

 連射性も抜群だ。

 残る5匹のうち、3匹が、ファイヤーボールに直撃し、そのまま絶命した。


「ちょっと! 私の見せ場も残しておいてよね!!」


 そんなふうに(うそぶ)きながら、ブロードソードを身体の横に構えたチェルが残る2匹へと走る。

 コロモのファイヤーボールを警戒していた魔物は、いきなり距離を詰めてきたチェルへの反応がわずかに遅れた。

 その隙を見逃すチェルじゃない。


「はぁっ!!」


 裂帛の気合を込めた剣の一撃が、灰色ウルフのみぞおちを捉え、その身体を真っ二つに引き裂いた。

 一瞬、硬直したチェルに、最後の一匹が飛び掛かる。

 しかし……。


「甘いよ」


 振り向きざまに、チェルは、返す刀で、逆袈裟に剣を振り上げる。

 襲い掛かろうとしていた灰色ウルフは、首を絶たれ、一瞬でその命を瘴気へと還した。


「ふぅ、まあ、こんなところね! はーい、みんな、見てくれた?」


 上空から戦闘の一部始終を捉えていたカメラに向かって、チェルは笑顔で手を振る。

 これだけレベルの高い魔物と戦うのは、初めてだというのに、なんとも余裕のあることだ。

 コロモの方は、初めての戦闘が終わった安堵感からか、ホッと胸をなでおろしていた。

 おい、カメラ、今、コロモの胸をアップしなかったか……。

 と、その瞬間、2人の身体が光を放つ。

 レベルアップだ。初心者冒険者が中級の魔物を6匹も倒したのだから、当然だな。

 2人で手を取り合って、ぴょんぴょん跳ねるチェルとコロモ。

 やがて、そんな2人が、僕の元へ駆けてきた。 


「ノエル、ありがとう!」

「師匠、サポート感謝です!」

「大したことはしてないよ」


 実際、僕のサポートは最低限のものだ。

 僕がしたことは単純に2つ。

 1つは、ファイヤーボールの威力の向上。

 灰色ウルフにファイヤーボールが当たった瞬間、周囲の酸素の濃度を上げ、火力を向上させた。

 同じく、チェルの剣には、風の刃をまとわせて、攻撃の鋭さを増している。

 どちらも、レベルの低い彼女達の攻撃力を補うための手段だ。

 その上、ここの魔物達の多くは、炎と剣による攻撃に弱いものが多い。

 中級ダンジョンの魔物と言えども、効果的な攻撃方法と、それなりの攻撃力さえあれば、低レベルでも討伐ができる。 


「この調子でどんどん行こう」

「ええ!」

「はい!」


 順調な滑り出しを見せた僕たち、極光の歌姫ディヴァインディーヴァ

 さあ、このまま一気にボスのところまで駆け抜けるとしようか。

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