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016.精霊術士、中級ダンジョンを攻略する

「いよいよなんですね……」


 目の前に広がる紫紺の光を放つゲートを見つめ、コロモがグッと、杖を握る手に力を込めた。

 とうとう、僕達【極光の歌姫ディヴァインディーヴァ】が、初のダンジョン攻略に挑戦する時がやってきた。

 まあ、厳密に言えば、一度、僕とチェルは、初級ダンジョンの攻略をしたことがあるけれど、あれは、まだ、お試し期間みたいなものだったからな。

 正式な初攻略といえるのは、今回からということにしておこう。


「しかし、いきなり中級ダンジョンとはなぁ……」

「インパクト絶大でしょ」

「そりゃあ、まあ……」


 アイドルが冒険者として活動する、っていうだけでも、他の例がない出来事なのに、初級ダンジョンをすっ飛ばして、中級ダンジョン攻略だもんなぁ。

 実際、この事実を公表したときの反響はものすごく、またも、映像水晶(パルスフィア)のトップニュースになってしまったほどだった。

 だが、冒険者活動に肯定的だった人の中にも、いきなりの中級ダンジョン攻略に際しては、異議を唱える人も多かった。結果、多少、論争を巻き起こす形になってしまっている。

 中級ダンジョンは、初級ダンジョンに比べて、魔物のレベルが高く、冒険者の行く手を阻む、様々なギミックも増えてくる。端的に言って、危険度が跳ね上がるわけだ。

 もちろん僕自身、中級ダンジョンの恐ろしさは、痛いほど、よくわかっている。

 だから、最初に、いきなり中級ダンジョンを攻略すると聞いたときは、有無を言わさず反対するつもりだった。

 でも、今、僕はこうしてここにいる。

 なぜかって?

 それは、今から攻略する中級ダンジョンが、あまりにも僕らが攻略するのに適しているダンジョンだったからだ。


「ほんと良くリサーチしてるよ」

「プランは完璧だって、いつも言ってるでしょ。ノルが来てくれた時から、一番最初の攻略はここにしようと、そう思ってたのよ。その上、コロモとも相性が良いしね」


 抜け目ないことで。

 さて、では、そろそろ行くとしようか。


「マネージャーさん、魔動カメラは?」

「ああ、ちゃんと預かって来てるぜ」


 今回の攻略は、映像水晶での生配信が決定している。

 普通はもっと高レベル冒険者、高難易度ダンジョンの攻略しか、配信されないものだが、話題性の高さから、放送局からマネージャーに話が来たそうだ。

 つまるところ、成功も失敗も、すべて視聴者には筒抜けになるということ。

 一瞬たりとも気は抜けない……うん、攻略もだけど、僕が男だということもバレないようにしないと。

 マネージャーさんから、魔動カメラを受け取ったチェルが、それを空へと投げる。

 すると、球体から羽根が飛び出し、ふわふわと舞う。そうして、目玉のようにレンズがギョロリとこちらを見た。


『映像配信、スタートします』


「さあ、配信開始よ。2人とも、気合を入れるわよ!」

「うん」

「は、はい!!」

極光の歌姫ディヴァインディーヴァ!! レディ……」

『ゴー!!!』


 3人で高らかに声を上げる。

 さあ、ここから始まるんだ。僕たちの冒険が。




 街から比較的近い場所にある上級ダンジョン、陽炎の孤城。

 常に大気が揺らぎ、ほの紅い風を纏うこの城型ダンジョンに、私たち【暁の翼】はやってきていた。


「さって、ようやくあんたの実力が見られるわけだな。セシリア嬢」


 ヴェスパが、声をかけると、セシリアさんは、構えた長槍をブンと振るう。


「ああ、皆の足を引っ張らないよう、善処しよう」

「メグさん、ご機嫌ですね」

「えへへっ、前衛が増えたから、私は4番手で良くなったもんね~。これで、敵の攻撃にびくびくしなくてもいいわ」


 心底嬉しそうに、笑顔を浮かべるメグ。

 本当に、そう上手くいくと良いのですが……。


「今回の攻略は、白亜の聖塔に挑戦するための、あくまで調整のようなものだ」

「わかってるって、大将。このくらいのダンジョン、サクッと攻略しちまってよ。午後には、街に戻ってゆっくりしようぜ」

「あ、あの、ヴェスパさん、あまり気は抜かない方が……」

「大丈夫だって、聖女様。ノルがいなくなって、セシリア嬢が入ってくれたんだ。パワーアップした暁の翼に、死角はねぇよ」


 ヴェスパさんは、本気で、ノルがいなくなって、パーティーが強くなったと思っているらしい。

 確かに、セシリアさんの実力は、折り紙付きだ。

 でも……。


「エリゼ! 何心配してるかしんないけど、大丈夫だって! びくびくする必要のなくなった私の大魔法、今に見せてあげるから!」

「メグさん……」


 彼女はわかっているのだろうか。これまで、ノルが、あなたの拙い魔法の腕を、どれだけサポートしてくれていたかを……。


「無駄話は終わりだ。行くぞ」

「おうよ!」

「ああ」


 リオンの言葉で、私達は、ダンジョンの入り口となる光のゲートをくぐる。

 不安に考えていても仕方がない。私は私の仕事をしっかりとこなすだけだ。

 そうは思っても、どうしても、ノルの優し気な顔が、私の頭からは離れてくれなかった。

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