015.勇者パーティー、新たな仲間を迎え入れる
「もう、なんなの!! せっかくマスコミに話題を提供してあげたっていうのにさ」
リビングの机に、行儀悪く足を上げながら、魔導士であるメグが言った。
話題とはそう、私達【暁の翼】が、セシリアさんと合流し、いよいよ白亜の聖塔へと挑戦するという情報だ。
以前から、新聞社や配信会社に、情報の提供をお願いされていたので、それに従った、というところなのであるが……。
映像水晶を見てみると、トップニュースとして流れているのは、いずれも、超人気アイドルの冒険者活動宣言についてのものだった。
相当派手な発表だったらしいので、話題になるのも頷ける。
とはいえ、完全に、話題の中心をかっさらわれる形になってしまい、メグとしては、納得がいかないのだろう。
「ちっ、本当にそうだぜ……。だけど、可愛いなぁ。しっかし、まさか、あの娘達が、あのチェルシーとパーティー組んでたとは……。くっそぉ、ちゃんと、お近づきになっておくべきだったぜ」
「ちょ、お兄ちゃん!! アイツらの方が話題になってるのに、何言ってんのよ!! それに、可愛さだって、私の方が上よ!!」
「あー、お前は乳ねぇからなぁ」
「かっちーん!! 殺す!!」
なぜか兄妹喧嘩を始めたメグとヴェスパをしり目に、私は、リオンの方へと視線を送る。
ニュースの映像をジッと見つめながら、彼は黙ったままだ。
最近の彼は、何を考えているのか、全然わからない。
ノルの件もそうだ。
私には、何の相談もなく、ノルをパーティーから追放することを決めた。
そして、追放することを直前まで、私には話さなかった。
セシリアさんの加入発表会見のあと、慌ててベースへと戻ったが、すでにそこにはノルの姿は無かった。
その後、色々な場所を探し回ったが、結局、彼を見つけることは、未だかなっていない。
もしかしたら、すでに、この街から出て行ってしまったのかもしれない。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
ノルは、今、どこでどうしているんだろう。
放送で、自分がパーティーから捨てられたことを知ったノルの気持ちを考えるだけで、掻きむしりたくなるくらいに、胸が痛んだ。
本当は、すぐにでも、ノルを探しに行きたい。
だけど、リオンを1人にもできない。
今のリオンは、少し怖いけれど、昔は、快活で、とても仲間想いの少年だった。
リオンとノルと私。3人で冒険を始めたばかりの頃の、楽しかった思い出ばかりが胸をよぎる。
どうして、こんなことになってしまったんだろう。
そんなことを考えていた時、ベースのドアが、ゆらりと開いた。
「邪魔をする」
小さいけれど、凛と響く声でそうつぶやき、入ってきたのは、長い金髪をポニーテールにした少しだけ私よりも年嵩の女性だった。
旅装だろう。簡易的なプレートアーマーに身を包んだその女性はそう、ノルの代わりに、暁の翼に加入することになった戦乙女セシリアさん、その人だ。
喧嘩をしていたヴェスパとメグも、すぐに気づいて、ポカンと口を開けていた。
リオンが徐に立ち上がる。
「戦乙女セシリア」
「勇者リオン」
2人は、ガッシリと握手を交わす。
「連絡より、少し早いな。迎えを寄こさず、すまなかった」
「構わない。私を必要以上に歓待する必要はない」
ぼんやりとした無表情で、彼女は言う。
セシリアさんには、今朝、隣町から魔力通信で連絡をもらったばかりだ。
予定より少し早く到着したらしい彼女は、真っすぐにこのベースへとやってきたらしい。
彼女は、涼し気な目をしたまま、周囲を見回した。
「彼は……出かけているのか?」
「彼?」
「あの精霊術士だ」
どうやら、ノルの事を言っているらしい。
それを聞いた途端、目に見えて、リオンの表情がゆがんだ。
「なぜ、あいつの事を……?」
「暁の翼には彼がいると聞いていたから。以前から、彼には興味があった」
いったいセシリアさんはノルとどんな接点があるのだろうか。
「あいつは、もういない」
「どういうこと?」
「出ていった。あなたを入れる以上、パーティーにあいつは必要ない」
有無を言わさぬ表情で、そう伝えると、リオンは不機嫌さも隠さずに、踵を返した。
「リ、リオン……?」
「エリゼ。セシリアに部屋を案内してやってくれ」
「え、ええ」
そのまま、私達に背を向け、自室へと歩いていってしまうリオン。
「どうやら、私が彼を追い出す形になってしまったようだ」
セシリアさんは、涼しい表情のままだが、何か思うことがあるのか、ぽつりとつぶやいた。
「いえ、きちんと話し合えないままに、ノルが姿を消してしまったものですから。セシリア様は、ノルとはお知り合いなのですか?」
「直接的な面識はない。だけど、知人から色々聞かされていた。彼は特別な存在だと」
「特別な存在?」
「うん。まあ、こちらの事情だ。それよりも、聖女エリゼ、これからよろしく頼む」
「は、はい、宜しくお願いします」
リオンと同じく、私もセシリアさんと握手を交わす。
クールなイメージの人だったけど、思ったよりも、人当たりが良いらしい。
仲良くやっていけそうで、ひとまずは安心した。
それに、この人も、ノルの事を評価してくれているみたい。
パーティーへの復帰は置いておいても、やっぱり、近いうちに、なんとしてもノルを見つけ出して、一度、お話ししないと……。
「おう、セシリア嬢!! 俺達ともよろしく頼むぜ!!」
「うんうん! すっごく強いんでしょ! これで、私も、魔物の攻撃にびくびくしなくて済みそうだし!!」
ニコニコと近づいてきたヴェスパとメグ。
セシリアは、どこか眠たげな表情で、彼らと話し始めた。
さあ、これで、新しい【暁の翼】は本格的に活動を開始することになる。
明日は、久しぶりのダンジョン攻略だ。
1年前に、攻略に失敗した白亜の聖塔。そのリベンジに向けて、明日は、まず、新しいパーティーメンバーを入れての肩慣らしとして、上級ダンジョンの一つ【陽炎の孤城】の攻略に挑戦する。
だけど……。
「本当に、大丈夫でしょうか」
ノルが抜けてから、初めてのダンジョン攻略。
精霊の見えない他のパーティーメンバーはともかく、聖女である私には、ノルがいかに凄いことをしているのかよくわかっていた。
彼のサポートがなくて、本当に、暁の翼は、以前のように戦う事ができるのだろうか。
不安で、不安で、仕方ない。
でも、それと同時に、こんな思いもあった。
他のメンバーが、ノルの評価を顧みる、よい機会になるのではないかと。
「とにかく、転移結晶はしっかり用意しておきましょう」
いつでもダンジョンから離脱できる用意だけは、しっかりしておこうと、私は胸に誓ったのだった。
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