121.精霊術士と絆の聖剣
白の魔王の障壁、それは、どんな攻撃も通さない絶対防御の盾だ。
チェルと僕の覇王の剣やセシリアさんの技でも破れない強固な防御壁。
まずは、それを完膚なきまでに破壊する。
「精霊憑依!!」
アリエルと融合した僕は、白の魔王へと飛翔した。
まるで勇者のような剣と魔法の波状攻撃を疾風と化した身で、躱しながら、奴の懐へと入り込む。
両の手に展開した風の刃を、一本の巨大な刃へと統合し、斬りつける。
だが、もちろんそれは、障壁に阻まれた。
精霊憑依状態の攻撃力でも、この防御壁を破ることは不可能。
だが、それは織り込み済みだ。
僕は、刃が防御壁に触れた瞬間、その障壁の性質を理解する。
この壁は、魔王が自らの魔力によって作り出したもの。
同じ魔力であれば、中和することだって、できるはずだ。
僕は、自らの肉体を捨て、今度は、アリエルへとその精神を宿す。
チェルを救出するときに使った逆精霊憑依。
アリエルの身体に、僕の精神を憑依させる。
そうすることで、自然そのものとなった僕は、白の魔王へとバフをかけた。
その身体に絡みつき、魔王に肉体にバフをかけることで、その絶対障壁を生成するための魔力にゆさぶりをかける。
つまり、それは、バフをデバフとして使うということ。
瞬間、魔王の絶対防御が揺らいだ。
「今よ!!」
チェルの叫びと共に、魔法剣と闘気槍が魔王の身体を穿った。
僕のバフにより、絶対防御の維持ができなくなった魔王は、2人の攻撃をまともに喰らった。
同時に、コロモの4属性魔法が迫る。
炎、水、風、土。四つの初級属性魔法を同時に、四方から打ち込む、コロモのユニークスキルがあるからこそできる絶技。
属性防御すらままならない連続魔法攻撃が、魔王の肉体に面白いように命中していく。
攻撃の嵐が去った後、白の魔王のその肉体から、彼を形成する魔力が、粒子となって飛び散る。
絶対防御を貫いたことにより、確実に奴はダメージを蓄積させていた。
だが、魔王は、自らの魔力を全開にし、僕を引きはがしにかかる。
白い瘴気とでもいうべきものが風のように渦巻き、ついにアリエルとなった僕の身体が引きはがされた。
「あと、一息だったんだけど……!!」
自分の肉体へと戻った僕は、奴の攻撃を捌くべく、再び通常の精霊憑依を敢行すると、風の防御壁を展開する。
ダメージは与えたが、倒し切ることはできなかった。
そして、同じ手が2度も通用はしないだろう。
ならば、今度は、正攻法で、奴の絶対防御を貫くのみ。
「エリゼ!!」
「うん!!」
魔王が放ってくる超絶的な威力の魔法攻撃を、僕らは、最低限の防御だけで耐え抜く。
エリゼの全力の防御魔法と全体回復魔法を常時かけ続ける。
その相乗効果で、辛くも、攻撃を耐え凌いだ僕らは、最後の攻撃に移る。
「アリエル!!」
呼び声に、僕の中のアリエルが強く脈動を返した。
同時に、天空に浮かぶオーロラまでもが、まばゆいばかりの光を放つ。
さあ、今こそ、全ての力を、一つにする時。
チェルが、聖剣を頭上に構えた。
「アークヴォルト!!」
天空より飛来した雷は、人々が繋いでくれた絆の力すらも、取り込んで、チェルの聖剣へと宿る。
そこにセシリアさんが、自らの闘気を、コロモが、魔力を込めた。
聖剣の光が一層強くなると、同時に、圧倒的な力が魔王の魔力すらも跳ね返す、鉄壁の防御壁と化す。
最後の仕上げとばかりに、僕は、再びアリエルへと精神を憑依させると、さらに、聖剣へとその身を捧げた。
人々との絆。
仲間との絆。
全ての絆を縒り合わせ、力とした究極の覇王剣が今、誕生した。
チェルが、一歩一歩、魔王へと歩を進める。
携えるは歌。
強く。強く。強く。強く。強く。
ただひたすら強く、歌を紡ぐ。
白の魔王はその歩みを止めようと、あらゆる攻撃手段をチェルへとぶつける。
剣圧を飛ばし、闘気弾をぶつけ、何種類もの属性魔法が直撃する。
しかし、それらすべてを、まるで、何事でもないかのように、受け流し、チェルはひたすらに歩き続ける。
やがて、魔王は、自らの剣に全ての力を纏わせた。
闘気と魔力、そして、塔の頂へと至る者を阻むという、己の誇り。
最後の一撃だ。
上段から振り下ろす魔王の剣。
そして、下段から振り上げるチェルの覇王の剣。
2つの最強の剣がぶつかり合った瞬間、世界さえも砕くかのような激しい衝撃と光が、その場を支配した。
一瞬の静寂。
スローモーションのように、時がゆっくりと動き出す。
翡翠色の光が降り注ぐその中で、その光に溶けるように、魔王の身体が粒子へと還り、やがて、消えた。
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