120.精霊術士とみんなの歌
『諦めたら、あかん!!』
一台のカメラを通して、空中に投影された映像。
そこには、メロキュアさんの姿が映っていた。
「メロキュアさん……!!」
『ノエル、それに、極光の歌姫のみんな!! 通信が遅なってすまんかったな!! せやけど、最高のタイミングや。これを見てみぃ!!』
メロキュアさんの顔が投影されていた空中に、今度は、街の広場の様子が浮かび上がる。
そこには、まるで、僕らのライブが開かれている時のように、たくさんの人々が集まっていた。
みんなは、僕らが戦う様子が映された巨大な映像水晶を見守っている。
『みんな、あんたらの戦いをずっと応援しとる!!』
『負けちゃダメだ!! 極光の歌姫!!』
『ああ!! チェルシーちゃん!! あんたらなら、きっと勝てるはずだ!!』
『コロモちゃん!! みんな君のすっごい魔法を期待してるよ!!』
『聖女様!! いっつもダンスを頑張ってたあなたの辛抱強さ、見せてください!!』
『セシリア様~!! カッコよいところ、今日も見せて下さいませ!!』
『ノエルちゃー!! ぬいエルー!! がんばえー!!』
「みんな……」
老若男女、これまで関わってきた全てのファンの人たちからの応援に、胸が熱くなっていく。
そして、映像は教会の前へと移り変わる。
そこには、僕らをここまで送り届けてくれた暁の翼と蒼鷹の爪のみんなの姿があった。
教会での治療は上手くいったようで、皆、きちんと自分の足で立って、こちらに手をかざしていた。
『お前ら!! 暁の翼の努力、無駄にすんじゃねぇぞ!! あと、あわよくば、この戦いが終わったら、お茶してくれ!!』
『エリゼ!! 元暁の翼として、頑張って!! セシリアも!!』
『ノエルさん!! チェルシアナお嬢様を聖塔の頂まで、連れて行ってあげて下さい!!』
『私たちが、叶えられなかった夢!! きっと、叶えてよぉ!!』
『ノエルちゃん!! さっさと聖塔なんて攻略しちまって、俺とデートしようぜ!! 待ってるからさ!!』
『極光の歌姫達!! お前達が俺に見せた光!! その強さがあれば、必ずたどり着ける!!』
『さあ、みんな、行くで!!』
メロキュアさんの音頭で、音響水晶から僕らの歌のBGMが流れ始める。
その瞬間、広場にいた人々の大合唱が、街に、そして、聖塔へと響き渡った。
「聴こえる……聴こえるよ。みんなの歌が……!!」
「ああ、なんて温かい……そして、力強い……!!」
「私達の歌……ううん、これはもう、みんなの歌なんですね!!」
「チェルさん」
「ええ」
聖剣を手に、チェルが立ち上がる。
そうして、彼女は歌い始めた。
コロモが、エリゼが、セシリアさんが、それに合わせるように、一人一人立ち上がり、歌を紡ぐ。
もちろん、僕も。
聖塔の頂までも聴こえるような、圧倒的な大合唱。
人々の歌と、僕らの歌が混ざり合い、そして、空へと昇っていく。
聖塔のさらに上、遥か天空へと。
「ペル・サーイサ・オー」
歌に乗せるように、僕は精霊語を呟いた。
瞬間、歌を力に変えるかのように、アリエルが、強い輝きを放ち、天へと昇っていく。
そして……。
歌は風となり、粒子となり、それは、やがて、極光へと変わる。
聖塔の頭上、ぽっかりと浮かんだ円形の空。
そこには、翡翠色に輝くオーロラが浮かび上がっていた。
柔らかく、温かな光に照らされた僕らの身体に、どんどん力が満ち満ちてくる。
これは、絆の光。僕らが、アイドルとして繋いできた、人々のつながりの光だ。
初めて、白の魔王の顔に驚愕が浮かぶ。
「さあ、ここからは」
「うん、僕らのライブステージだ!!」
翡翠色の光をその身に受け、僕ら、極光の歌姫の最後のライブが、今、開始されようとしていた。
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