表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/123

116.精霊術士と精霊術士

「ここは……どこだ……?」


 混濁する意識。

 やがて、目覚めた僕は、真っ白な空間にいた。

 ちょうど、試しの書があった50層が、こんな感じだった。

 先ほどまでいた、塔の内観とはまるで違う。

 確か、僕達は、57層のボス、アルケミスターを一気呵成に倒したところだったはず。

 ここは、58層なのか……?

 仲間の姿を探すが、どこまでも続く白い地平には、人の姿はおろか、影の一つすら見当たらない。

 いや、違う。

 そんな中に、一つだけ影がある。

 もしかしたら、ずっとそこにいたのかもしれない。

 でも、僕は、それが誰であるのか、一瞬、認識ができなかった。

 だって、それは……。


「……僕?」


 白い空間の中に、唯一佇む男──それは、かつての僕の姿だった。

 チェルと出会う前、暁の翼にいた頃の僕の姿。

 当然、女の子の格好などしておらず、目深にフードをかぶった地味な格好だ。

 長い前髪とフードが作る影のせいで、表情は伺い知れない。

 ふと、かつての僕そっくりなそいつは、こちらを見た。

 そして、あろうことか、精霊語を呟く。


「ペル・サーイサ・オー」


 その瞬間、まばゆいばかりのエメラルドグリーンの輝きが、空間を支配した。

 精霊憑依……した、だと!?

 そう、理解した次の瞬間、危機感を感じた僕も同じく精霊憑依を敢行した。

 アリエルが身体を満たすのとほぼ同時に、先に精霊憑依した"僕"の風の刃が僕へと放たれた。

 なんとか、ギリギリで鍔迫り合いに持ち込む。


「ぐっ……くくっ……!!」


 精霊憑依状態の"僕"の攻撃を精霊憑依状態の僕が受ける。

 アリエルの力を借りている今の状態で、押し負けそうになるなんて、初めての経験だ。

 迸る風の勢いに乗るようにして、僕は何とか"僕"の剣を弾くと、後方へと大きく跳躍した。

 距離を取って、改めて"僕"の全身を目に納める。

 "アリエル"の大自然の力を、翡翠色の光として、全身から立ち上らせる"僕"。

 その口元がにやりと笑みを浮かべた。

 烈風が迫る。

 台風かと思われるような嵐の渦。

 そこに、僕も、同じく嵐の渦をぶつけて相殺する。

 圧倒的な大精霊のパワー同士のぶつかりあいに、空間すらも歪み、紫電が迸る。

 やがて、僕らの周りには、暴風が吹き荒れていた。

 体感的に、なんとなく感じた。

 この暴風は、敗者を蝕む地獄の風なのだと。


「これが、女神からの試練なのか……?」


 自分自身と戦う。

 力も、技も、魔力も、何もかもが全く同等の自分と戦って、勝利する。

 それが、女神から与えられた試練であるならば、越えなければならない。

 でも、なぜだろう。

 僕は……。

 目の前の"僕"が右腕を振るった。

 刃となった風が、僕の左頬を薙いた。

 左腕を振るう。

 今度は、右太ももを割かれた。

 大精霊として、魔力の防御膜があるといっても、あちらも同等の力を持っている。

 腕を振るたび、僕の身体に、傷が増えていく。

 それでも、僕は反撃しなかった。

 一歩踏み出す。

 風がさらに激しくなった。

 もう一歩踏み出す。

 もっともっと強くなった。

 まるで、僕を拒絶するように"僕"の風は一層激しくなる。

 でも、それでも、一歩ずつ、一歩ずつ。

 そうして、いつしか、僕は、"僕"の目の前までやってきていた。

 未だ、顔を上げない僕の細い身体を、ギュッと抱きしめる。


「……いいんだよ」


 これはきっと、あの頃の……チェルに出会う前の、本当の僕の心だ。

 表面では、物わかりの良い自分を演じていた僕。

 誰に認められなくても平気な顔をして、でも、実は、心の底で、ずっと叫びを上げていた僕。

 自分を苛む人々を、本当は痛めつけてやりたかった僕。

 僕、僕、僕、僕、僕。

 あの頃の僕の、偽りのない感情。

 でも、自分だからこそ、わかる。

 この感情があったからこそ、今の僕がある。

 たくさんの人に認められて、心から嬉しい僕がいる。

 かつて恨んだ仲間達と、もう一度、冒険することだってできた。

 そして、何よりも、いつまでも一緒にいたいと思える仲間達ができた。

 自分の一部を切り捨てたりなんかしない。

 僕は……。


「一緒に行こう。白亜の塔の、その頂まで」


 (ノエル)は、傷だらけの手で、ゆっくりと、"(ノル)"の手を取った。

「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ