115.精霊術士と繋がれた想い
ただでさえ朽ちかけていた白骨の賢人が光となって散ってく。
その光の粒子越しに、2人の勇者は満身創痍の体で、それでもなお立っていた。
「あの2人、もう意識がないわ」
チェルの言う通り、彼ら2人は、すでに、全ての力を使い果たしていた。
下手をしたら、命すら危ういかもしれない。
そんなことを考えていた刹那、2人が、まったく同じタイミングで、地面へと倒れ伏す。
僕は、無意識のうちに彼らの元に駆け寄っていた。
「リオン!! グラン!!」
穏やかな表情を浮かべる彼らは、まるで、死んでしまったかのように思える。
だが、アリエルを使役する僕には、彼らの心臓がまだ、しっかりと動いているのがわかった。
「良かった。本当に……!!」
労うように、彼らの頬に手を当てる。
リオン。彼が自分の栄誉のためではなく、他人のためにこんなに力を尽くしてくれるなんて、思ってもみなかった。
グラン。ナンパな顔の裏に、こんなに熱い勇者の魂を持っているなんて、思ってもみなかった。
誰よりも勇者らしい2人の冒険者の活躍に、僕は、胸が熱くなった。
「どうやら、彼らは全滅扱いと判断されたようね」
僕の傍へと歩いてきたチェルが言った。
必死すぎて、気づいていなかったが、あの透明な壁がいつの間にか消えていた。
つまり、それは、他のパーティーが全滅したと判断され、僕ら極光の歌姫が戦う番が回ってきたということ。
それを理解した僕は、2人の頬をそっと撫でた。
「ありがとう、リオン。グラン」
そうして、彼らの胸の転移結晶を砕く。
消えゆく彼らを見守った僕は、やがてゆっくりと立ち上がった。
同時に、いつの間にか上昇していたフロアが止まる。
瘴気が……満ちる。
「随分、私達の出番が減っちゃったわね」
「ええ、皆さん、びっくりするくらい頑張って下さいました」
「報いねばならんな」
「はい、私達の全てを賭けて」
みんなが、戦闘態勢へと入っていく。
胸の熱さを感じながら、僕はおもむろに立ち上がった。
顕現するボスモンスター。
その姿は、6本の腕を持つ、般若のような人相の化け物だった。
それぞれの腕には、柱ほどもある、無骨な大剣を携えている。
その名は、アルケミスター。錬金術の巨人。
「来るよ!!」
ボスが動く。
動きは、それほど速くないが、一歩一歩が大きいため、すぐに距離を詰められる。
後衛にとって、距離を詰められることは、死に直結する。
だが、僕は、一つも恐れなど抱いていなかった。
ボスが走るその前に、誰よりも気高く、強い、戦乙女がいるのだから。
「闘気解放! はぁああああっ!!!」
ボスが剣を持った6本の腕を、一斉に振り下ろす。
だが、セシリアさんは、それを自らの聖槍一本で受け止めた。
恐ろしいほどの膂力。
もちろん、僕もバフをかけてはいるが、それでも、ボスの全力の攻撃を真っ向から受け止めるそれは、人間業ではない。
セシリアさんはパーティーに加入した当初から、最も完成された力を持った冒険者だった。
しかし、それは伸びしろがない、ということと同義ではない。
極光の歌姫としての活動、そして、この3か月の準備期間を経て、彼女はさらに自身の力に磨きをかけた。
そして、その磨き上げた実力に見合うだけの武器を彼女は手に入れている。
「輝け!! ロンゴミニアド!!」
セシリアさんの激しい闘気が、聖槍へと伝わり、さらに聖なる光となって、アルケミスターを撃つ。
聖闘気とでもいうべき、強力なオーラを叩きつけられた巨体は、遥か宙を舞い、地面へと叩きつけられた。
「ファイヤーボール・インフェルノ!!」
死に体になったアルケミスターへと、大魔導士コロモが、追撃の魔法を放つ。
ファイヤーボールしか使えなかったコロモ。
今では、各属性の魔法を使えるようにはなったが、どの属性も、初級魔法しか使えないことに変わりはない。
しかし、彼女にはそれを補って余りある強大な魔力と、自身の力を最大限に発揮するために、研究し続けた創意工夫がある。
彼女が放った巨大なファイヤーボール。
それは今、無数の炎弾となって、ボスの巨体を穿つ。
次から次に炎が襲い来るその光景は、まさに煉獄。
魂すらも燃やし尽くすかのような業火に、さすがのボスも、大きく、叫び声を上げた。
大ダメージを受けたボス。だが、耐久力だけはなかなかのものだ。
全身から煙を上げつつも、奴は、6本の腕、それぞれに持たされている武器の形状を変化させた。
剣が鉄の塊に変化し、そして、巨大なボーガンへと変わる。
左右に二丁のボーガンを構えたアルケミスターは、発射した。
音よりも速く、矢が僕達に向かって飛翔する。
「ホーリープロテクション!!」
しかし、矢は、エリゼの魔法によって、あえなく防がれる。
回復術のスペシャリストとして、仲間を支え続けたエリゼ。
彼女は、この3か月の間で、回復、サポートに加え、防御魔法を徹底的に鍛え上げていた。
繊細な魔力制御により、三重となった魔法の障壁は、あらゆる攻撃を弾き返す、何よりも強固な盾だ。
「ノエル!!」
「ああ、決めよう!!」
チェルが聖剣に雷を纏い、さらに、そこにアリエルが憑依する。
風そのものとなったチェルは、奴が放った矢にも匹敵する速度で、一気に肉薄した。
「覇王の剣!!」
反応すらできなかっただろう。
雷光の如く、彼女の駆け抜けた後には、胴を真っ二つにされた巨人が、光の粒子になって散っていく姿だけがあった。
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