113.精霊術士と最大値の悪魔
なおも階層は進む。
54層、もはや残るメンバーは4名。
2人の勇者、グランとリオン。
そして、元漆黒の十字軍の2人、カングゥさんとクーリエさん。
実力者ばかりではあるが、すでに、通常のワンパーティーである5人を切った。
果たして、次のボスを倒すことができるのか……。
だが、僕のその不安は杞憂に終わった。
「邪魔だ」
「ああ、どけ」
顕現したボスモンスター、エクストリームシールダーは、2人の勇者の元、一撃で葬り去られた。
全身が巨大な盾という圧倒的な防御力を誇る魔物だったはずだが、カングゥさんの呪術によるデバフと、勇者2人の全力の攻撃力が合わされば、それはただの的でしかなかったのだ。
クーリエさんにより、体力を完全回復させた2人は、4戦目にあって、技の冴えが極限まで極まっていた。
「凄いねぇ、2人とも。お姉さん感心しちゃうよ」
さすがのクーリエさんも、2人の強さにびっくりといった様子だ。
実際、仲間がほとんど離脱したこともあってか、2人の瞳には、仲間の分も戦う、という強い意志が見えた。
その闘志が、2人の冒険者として力を大きく引き上げているのは間違いない。
「さて、また、次が来ますよ」
55層、現れた化け物は、これまでのような魔物、魔物した姿形ではなかった。
言うなれば、その見た目は勇者だ。
まるで、人形のような球体関節を覗かせつつも、プレートアーマーを着込み、聖剣じみた大剣を構えるその姿は、勇者そのもの。
子どもがごっこ遊びで使う、木彫りの勇者人形、とでも言った方がしっくり来るかもしれない。
試しの書で見たその名は、確か、サムスコア。
「来るぞ!!」
サムスコアが剣を構え、走った。
いや、走ったと思った時には、すでに、全員が斬り刻まれていた。
「ぐがっ……!!」
「バ、バカな……!?」
それぞれが、身体のいずこかに切傷をもらいつつ、後方にしたカングゥさん以外の全員が膝をつく。
精霊術士として、観察眼や動体視力には自信がある僕をして、まったく見えないほどの圧倒的スピード。
はっきり言って、レベルが違いすぎる。
「な、なんなんだこいつ……速すぎる……」
「デバフをかけます。皆さん、攻撃を!!」
カングゥさんが、必死にデバフをかける。
再び攻撃を繰り出してきたサムスコアは、さすがに先ほどよりも遅い。
だが、それでも、前衛の3人は、なんとか攻撃を捌くのでやっとだ。
「こいつ、攻撃力も並じゃない……!!」
「ああ、おそらく防御も……」
「このままじゃ、ジリ貧だよぉ!!」
素早い動きと、重い剣撃に翻弄される3人。
ついに、捌き切れず、クーリエさんが、重たい一撃を腹に受けた。
手甲で剣を防いだ直後に放たれた回し蹴りだ。
地面を滑りつつも、なんとかこらえたクーリエさんだったが、さすがに膝をつく。
「い、痛いなぁ……もう……」
努めて普段通りの口調でそう言うが、表情には色濃いダメージが感じられる。
だが、その時だった。
今まで一切当たることのなったリオンの攻撃が、サムスコアの背中にヒットした。
防御力の高さから、大きなダメージを与えることはできなかったものの、さすがに警戒したのか、サムスコアが大きく、一度距離を取った。
「なんだ、こいつ、遅くなったぞ」
「ああ、さっきよりも明らかに遅い」
僕の目から見ても、確かにサムスコアの動きは、突然鈍くなった。
そのタイミングは、クーリエさんに重い一撃を浴びせた直後だった。
その時、僕の頭の中で、天啓のように何かが閃いた。
「みんな!! その魔物は、みんなのステータスの合計値を自分のステータスにできるんだ!!」
「ステータスの合計値だって……!?」
一見突拍子もない考察かもしれなかったが、僕には確信があった。
クーリエさんがダメージを受けて、彼女の素早さが大きく半減したその直後、奴の動きも大幅に遅くなった。
さらに、合計値を表すサムという言葉に、まるで、冒険者そのもののような見た目。
それらを総合すれば、自ずと、その結論に至る。
「なるほど……私達の合計ステータスってわけだね……」
クーリエさんが、ニタっと笑った。
「だったら、攻略法は簡単だ」
再び、サムスコアが勇者2人に攻撃をしかけようとしたその時だった。
クーリエさんは、白狼族の鋭い爪で、己の腹を貫いた。
「クーリエ!!」
思わず、カングゥさんが叫ぶ。
だが、すぐに意図を察して、全力のデバフをかけた。
クーリエさんの作戦は、自身を傷つけることで、敵のステータスダウンを狙ってのことだ。
攻撃途中のサムスコアのステータスが急激に下がれば、攻撃の隙は必ず生まれる。
にわかに遅くなるサムスコア。そして、見ただけではわからないが、その防御力も大きく弱化しているはず。
攻撃の速度が遅くなったその隙をついて、グランとリオンの左右からの抜き銅が、サムスコアを見事捉えた。
上半身と下半身を真っ二つに断たれたサムスコアは、すぐに光となって宙に消えた。
「まったく、無茶しすぎです」
カングゥさんが、優しく、クーリエさんを助け起こす。
「ははっ……まあ……ちょっとは……先輩らしい……ところも……見せない……とね」
肺に穴が開いているのか、荒々しく息を吐きながらも、クーリエさんはその顔に笑顔を浮かべた。
「あとは……」
「ええ、任されました」
カングゥさんと視線を交わすと、クーリエさんは自ら自身の転移結晶を砕いて、その場から消えたのだった。
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