【百合掌編】愛とこころ【改稿版】
すう、すうと後ろ髪の間を優しく櫛が通っていく。
パパとママは喧嘩してばかり。高校でも一人ぼっちで楽しくなくて。「灰色の日々」そんな言葉が似合う日常。
「こころちゃん、本当にきれいな髪。羨ましいな」
背後から穏やかで澄んだ声がかけられる。
こんなあたしが男遊びやその他、良くないものに手を染めずに踏みとどまれているのは、彼女、愛姉のおかげ。
お隣に住んでいる十五も歳上のお姉さんで、くせっ毛と優しい瞳が特徴的。小さな頃から、何か嫌なことがあると愛姉のところへやってきて、こうして髪を梳かしてもらっていた。
泊めてもらって一緒に寝たこともあるし、実の家族以上に慕っている存在。
食事していて美味しいと感じたのは、愛姉の家で一緒にご飯を食べているときだけ。
そんな大好きな愛姉がとても大事にしていた小鳥の硝子細工を、なぜかそうしたくなって床に叩きつけて粉々にしてしまったことがある。
でも、愛姉は怒らずに逆に私を抱きしめてくれた。
愛姉にぎゅーっと抱きしめてもらうと、嫌なことがすべて心から消えて、平穏と暖かさが訪れる。
「できた」
最後のひと梳きが終わると、愛姉が背後から抱きしめてくる。
「今日、カレーだよ。こころちゃん、カレー好きだもんね。いっぱい食べていってね」
愛姉。大好きな愛姉。愛姉が傍にいてくれる限り、あたしはきっと大丈夫。
<制作秘話>
母性の塊みたいな三十路ヒロイン書きたい! という突発的な感情から書きました。当然、私が書く以上百合です。
後付けで、愛情不足の子供がよく行う「テスト」という、「この人は本当に何をしても自分を愛してくれるかを試す」行為のエピソードを書き足し、より母性に深みを出しました。
お話が短いので、さっそく隠し設定というかいつものキャラ語り行ってみましょう。
・こころ
フルネームは水林こころ。水林は「淋しい」にかけています。作中で自分語りしてる通り、心に闇を抱えてる子です。ちなみに、おなじみ○×高校在校生。
・愛
フルネームは慈愛。上述の通り母性愛あふれる三十路ヒロイン。デザイン関係の在宅ワークをして暮らしている独身です。