強者の無自覚
国王との対談で明確にしておくべきことは終えた。サナにとって必要なものは、国であって国家ではないのだ、これ以上の問答は意味を成さない。相手方にとっても周知の事実となった今では、誰しもが早期解散を望んでいた。
「サナ殿もこれ以上の長居は望まぬところでしょうし、本日はここまででよろしいでしょう。」
ドナウ大臣はかなりの効率主義者のようだ。立場を重んじず意見を求めることも、一つの効率重視の一端だ。勿論ドナウ大臣の効率主義には、国王への忠義が根底に重く堆積しているが、彼自身の性格もまた大きく積み重なっている。無駄の一切を切り捨てる考えは王室には似つかわしくないが、彼の能力を加味すれば誰も異議を唱えることはなく、寧ろ信頼すら築かれていることは確かだ。
「じゃあ俺たちは失礼する」
サナはドナウ大臣とイリエ大臣を横目に見ながら、大扉に向かって歩き出す。戦力としては期待できないが、内政外政に関しては両大臣の能力は高く評価していた。
「サナ殿、協定草案を後ほどお渡しに伺います。内容の摺り合わせは私とサナ殿で、それに伴ってサナ殿には王都周辺の宿屋を用意しているので、そちらにお願いします」
ドナウ大臣はサナが退出する直前に最重要事項の連絡を行った。相手が圧倒的格上である場合、安全を保障するものは契約しかない。サナが如何にカイマンに興味を持っていないといえども、それが敵対しないことの証明にはなりえない。寧ろカイマンを大陸統一計画のために切り捨てるなんてことも十分にあり得る。ドナウ大臣が知る限りで交渉術が一番優れているのはドナウ大臣自身だ。カイマンの安全を確保しつつ自国に益をもたらす、ドナウ大臣の決意の元に発せられた言葉だった。
しかしサナにはその決意は届かない。国の存亡や利権など意に介さずに歩み去っていく様は、圧倒的な力の表れだろうか。過去には同じく弱者であったはずのサナには、弱者の気持ちが理解できなくなっているのだ。勿論サナは世界平和を望み行動している、悪なき者達を害する気持ちなど持ち得ていないのだが、その志はサナの肉体には体現していない。サナなの固有スキル『嫌われ者』の特性上、有利であるが、なんとも悲しい生きざまである。




