謁見2
サナの言葉に皆が驚くなか、ただ一人だけが平然としていた。ナイル国王の右に控えている男だ。サナの狂言を真摯に受け止め、言葉の真意を測ろうとしていたのは、彼だけであった。
しかし、まだ彼は言葉を発さない。代わりに第一声を上げたのは指揮官であった。
「待ってくれサナ殿、先ほど交わした約束と違うではないか⁉」
指揮官だ、、、サナを信用し国王に謁見させたのは指揮官であり、不測の事態に対して、いの一番に対応すべき人物もまた指揮官なのだ。優秀で生真面目な指揮官は、セオリー通りにサナへと声を掛けた。
「言葉の通りだ、お前らはただ俺の言う通りに従えばいい」
何とも横暴な発言だ、これにはさすがの指揮官も二の言を失う。サナの言葉からは、これ以上の発言が期待できないからだ。絶望の淵へと叩き落された指揮官とナイル国王は、目に影を落としている。
「ナイル国王、イリエ大臣、お二人とも気を落とされるな」
先ほどからの問答を顔色一つ変えずに傍観していた男が突如として声を発した。
「ドナウ、、、そうであるな。気を地に堕としたところで意味など持たぬ・・・」
「そうではありませんぞ、サナ殿は我々に隷属など求めておりません」
ナイル国王は、右に控えていた男、ドナウの言葉を慰めと考えていたが、ドナウは有りのままを伝えていたのだ。
「それはどういうことか!?ドナウ大臣!、、、、いえ!失礼なことをっっ」
指揮官の男、いやイリエが即座に問い詰めようと声を出したが、イリエは自身よりも格上の存在であるドナウに無礼な態度をとってしまったことを反省し、すぐさま謝罪の意を示した。
ドナウとイリエはどちらも大臣という肩書を担っているが、正式名称は異なる。イリエは右大臣であるが、ドナウは左大臣。わずかではあるが上位の位として左大臣が右大臣を超えているのだ。当然イリエがドナウに対して意見をいう、ましてや問い詰めるなど言語道断なのである。
「いつも言っておりますが、遠慮はいりません。我々の立場の違いなど些細なもの、それに王に仕え補佐する者は立場関係なく意見を出す事こそふさわしい」
ドナウは気味が悪いほどの人格者であることがわかる。人間とは権力関係を重視し、より上位の者は権力に胡坐をかき驕り高ぶる。逆に下位の者は強者への恨み妬みを心に常駐させ、常に不安に苛まれている。人間種とは、かくも愚かな存在であるはずなのだ。しかしドナウはそれを全く持ち合わせていない、人間としては寧ろ欠陥品と言わざるを得ないほどだ。
「国王のみを上位と定めるその思考、まるで魔種だな」
サナの言葉は言い得て妙、ただ一つの存在を崇拝するという形態は魔種に多く見られる習性であり、オーガ、オークをはじめウルフ系統の魔物はほとんどが当てはまる。サナも本気で発言したわけではないが、それなりに思うところがあっての言葉であった。
「お戯れを、、、私よりもサナ殿こそ魔種、いえ魔族らしい」
ドナウはサナの言葉に負けじと返す。実際魔王として君臨するサナにとっては核心を突かれたと言える。しかしドナウもただの遊戯、確証を持って発言したわけではない。だからと言って疑っていないわけでもないのだが。
「それよりもサナ殿、私が説明したほうがよろしいかな。最早私に暴かれた以上取り繕う必要はございませんぞ」
サナは、自身の考えを看破されたことに若干の不快感を持ったが、元々ただの遊戯でしかなかったこの問答、サナは説明をドナウに任せることにした。最早この空間に興味など皆無となったのだ。
「そもそもサナ殿はなぜここにいるのか、イリエ大臣がサナ殿には勝てないと判断したからでしょう。そしてそれは天が地に落ちようとも変わらぬ事実、そんな強者が我々に何かを求めるとは考えづらい。あって衣食住の提供でしょうが、サナ殿、スペチアーレ殿の二人分と考えれば何という事はありません。サナ殿が求めていたことは「侵略の妨害行為の禁止」「自己判断での協力禁止」「そして我々の狼狽する表情」の三つだったのでしょう」
ドナウの言葉に「?」が消えないイリエとナイル、追加の説明が必要であるとドナウは考えたが、サナが言葉を割って入れた。
「自己判断での協力禁止について、俺たちは俺たちの計画で統一を進めて行く、イレギュラーなことが起こると計画の修正が必要になるため極力我々の行動に関与しないでほしい。狼狽する表情に関しては俺がただ見たかっただけだ」
サナはいたずらっ子のようにはにかんだ笑顔を見せる。絶望に叩き落されていたナイル国王、イリエにしてみれば大変迷惑な行動であったが、異議を唱えることはできなかった。
『サナ殿は随分と簡潔に説明されていたが、ようは我々に国家という存在以外には利用価値がないと言っているようなものだ。侵略行為の大義名分を得る為だけの駒に過ぎないと考えているのだろう』
ドナウはサナが言葉に落とし込まなかった真意すら掬い取りかみ砕いて認識していた。だが文句を言うつもりなど毛頭ない。目の前の化け物への干渉を極力減らすことがナイル国王への最大の忠義、サナが関係を深く持ちたがっていないことも相まって、ドナウがこの真実を外部に漏らすことはなかった。




