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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
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謁見

村の長が住むにしては豪華だが、国王を名乗るにはそれなりの城に住んでいた。アシハラと違い小規模な村落でこれだけ立派な建築物があるというのは驚くべきことだが、やはり辺境の王に変わりはなく王城とは聊か呼べないものであった。ただし街並みはアシハラ壁内と変わりないレベル、いや寧ろカイマンの方が発展しているといえる。


「こちらで少々お待ち願う」


指揮官はサナとスペチアーレを王城内の一部屋に案内する。いくつか存在する客室の一つだ。もともと交渉・同盟を目的とした近隣村落の訪問者を招くための部屋であったが、今まで一度たりとも利用されたことが無く、家具や壁は美しさを保ちながらどこか寂し気なものであった。


「では何かあればそこのメイドにお申し付けを」


指揮官はサナに告げるとそそくさと退室する。同じ空間にいることを嫌ったところもあるが、彼には確認しておきたいことがあったのだ。客室から少し離れ、部下を一人呼びつける。


(王への言伝は通っているか?)

(早馬によりお伝えしております)


早馬、誰よりも早く本陣に戻り報連相を行うことを専門とした少数精鋭の兵士の呼び名である。前線に立ち、敵の戦力・作戦・要人の位置を探り、誰よりも速く退陣し本部に情報を伝える、これだけ聞くと大した役割を持たぬ部隊のように感じる。しかし一番重要な役割であると同時にカイマン最強の部隊である。強さと判断力、そして高度な隠密力が無ければ務まらない選ばれた者のみの集団、ほとんど実態が掴めない影に潜む者達である。サナと共に王城を目指すほんの少し前、早馬は脱兎の如く出発していた。サナたちが隊列を組むころには王への連絡を済ませ、王への助言等を行っていたのだ。


「準備も整っているのか?」

「はい、いつお呼びしても構いません」


準備とは玉座の間のことを指す。王との謁見など容易くできるものではない、それは平民と王では身分に差があり過ぎることもあるが、王自身の準備に時間がかかる点も問題なのである。どうも国事というのは荘厳さというものが必要らしく、無駄とも思えることこそが重要なのである。


「では行こう、王を待たせることはできんしな」


指揮官は再びサナの待つ客室へと向かっていく。二人が入ってから暫くと経っていないが申し訳なささもほどほどに呼び出すしかない。4回扉を叩く、コンコンという優しい音は扉の先にいるサナの耳に届いただろうか。部屋の中から人の動く雑音がするため、サナ、スペチアーレ、メイドのどちらかには確実に聞こえている。指揮官が今すべきことはただ扉が開くのを待つことだけだ。


「お呼びでしょうか?」


出てきたのはメイドだった。開いた扉の先ではサナもスペチアーレも立って動く準備をしていたので、二人にもノックの音は聞こえていたのだろう、ただ扉に一番近いメイドがいたことと客人に対する礼儀によってこのような構図になったのだ。


「ええ、王の準備が整いました。ついてきてください」


指揮官は淡々と要件のみを伝える。王に仕える者として感情を一切殺して毅然として対応する、王との謁見は厳かでなければならないのだ。サナとスペチアーレも指揮官の態度を見て襟を正した。サナとスペチアーレは黙って指揮官の後ろをついていく。アシハラ国王カマロと面会した時とは比較にならない緊張感が纏わりついていく。強者との間で感じられる緊張とは異なる緊張感だ、明らかに高尚な手続きに従者一人一人の立ち振る舞いが、玉座の間が神聖な場所であることを間接的に伝えているのだ。


「スペチアーレ、大丈夫か?」


まぁ、このような圧力もサナには効果が無い。子どものおままごと、児戯に等しく感じられた。スペチアーレの心配をするほどの余裕をたっぷり残している。


「えぇ、どうしてかしら?」


スペチアーレも随分と神経が太くなったようだ。サナと行動を共にするうちに大抵のことでは姿勢をくずさない体幹が出来上がっている。魔王サナ、勇者サナ、アシハラ国王小鳥遊蓮、魔王軍幹部の金鶴・銀鶴、長い人生で本来関係を持つことなどない人種達だ、もはや一村落の主など目にも止まらぬ存在でしかないのだ。


ゆうに3メートルは超える木製の扉が目の前にそびえる。使われている材料に高価なものはないが、細かい細工が施されており職人の技術の高さがうかがえるが。資源と技術が豊かな南の大陸と言えど、諸国が持てる富の限界を感じさせた。サナがカイマンの財力・技術力を分析している間に入室の許可が下りたようで、凝視していた扉がゆっくりと開いていく。


「ナイル国王、客人二人のお見えです」


サナとスペチアーレを御前に案内し終え、国王の左側に整列した指揮官。かなりの強者であると感じていたが、まさか国王の側近クラスだとは思いもしなかった。国王の右に控えていた男に強さは感じられないが、指揮官と同じく国王の傍に佇んでいるということは特筆した能力を有しているのだろう。


「お初にお目にかかります、私は東の地より参ったサナ・ターゲットであります。隣の者は・・・」

「スペチアーレ・ジオメトリーであります」


頭を垂れ、王に跪く姿は身分上当然のことであるが、本来の立場は全くの逆である。サナという国滅級の強者が相手では身分などというものは意味を持たない。ナイル国王は王としての態度を崩さないが、交渉自体はほとんど無条件克服に近しい対応を行うつもりだ。心の持つ余裕が違う。


「表を上げよ、同盟を結ぶ以上我とそなたたちは対等ぞ」


ナイル国王の発言は特例中の特例だ。対等となりえる存在は同じ国王に類する者達だけのはずだが、国王の目の前にいる男は化け物の化け物であり、常識が通じる相手ではない。対等という立場をとること自体が分不相応であるが、国王としての面子と交渉のためには延いてはならない一線であったのだ。


「わかりました。それでは率直に言わせていただきます。全てを黙して俺に従え」


指揮官と交渉した時とは異なる言い分に国王を含めた兵士達の動きがこわばるのをリアルに感じた。


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