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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
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交渉後

サナと指揮官が話をつけたことでスペチアーレの立場は客人待遇となる。いや客人という待遇ではない、宗主国の代表を扱うように、従属国としてできるだけのモテナシをしようという意気込みが見える。


「さて、今の契約はまだ口約束にしか過ぎない。我々の主、ナイル国王と正式に会ってもらいたい」


ナイル国王、カイマンの当主を務める者である。国王といっても南の大陸に数多存在する村落の一介の王であり、それほどの権力者とはいえない。しかし村落『カイマン』を束ねる者であり、発言には一国の王としての権威がつくことになる、スペチアーレのためにもナイルとやらとの関係を深めることも重要だと思い同意するサナ。


「分かった。代表者はスペチアーレだが、俺もお目付け役として同席させてもらう」

「ええ、是非ともよろしくお願いします」


サナの言葉に快く返事をした指揮官であったが、内心は苦い顔をしていた。スペチアーレのみであれば、カイマン側に有意な契約を取り交わすことも可能であっただろう。指揮官にとって、スペチアーレ本人にはこれといった特殊能力も交渉術も無いように感じられたのだ。だからこそサナの存在は盟約締結の場においては邪魔にしかならないと思っている。


サナにしろ指揮官にしろ、腹の中に異なる考えを孕んでいるが一旦話はついた。海岸から王都に向かうことが決定した今、サナを含めて隊列が組まれていく。敵襲がないことは当然だが、形式的に一番安全な中央にサナとスペチアーレが配置された。指揮官は、本来身を置くべき場所にサナとスペチアーレがいるために前線に立つことにした。国賓であるスペチアーレとサナに安全な場所を譲ることも一つの目的であったが、何よりも優先したかった目的はサナの眼から逃れることであった。


「あんな化け物の傍にいるぐらいなら、カイエンの兵士どもを相手取るほうが安全だ・・」


指揮官はサナを恐れていた。サナから発せられる雰囲気に魔族のたぐいは感じられなかった、しかし禍々しいオーラは人間とも言い難い。あれは「化け物」と呼ぶべき存在だと認知していたのだ。


「珍しいですね隊長、隊長が愚痴を漏らすな・・んて・・・」


指揮官の近くにいた兵士が指揮官の愚痴に返答しようとした。この兵士には指揮官の気持ちなど微塵も理解できていなかったが、指揮官の疲れ切った顔を覗き見れば指揮官の言葉が嘘ではないことが分かった。だからこそ兵士は、言葉を言い淀んでしまったのだ。


「気にするな、お前らが考える必要はない。これはお前らを束ねる俺が考えるべきことだ。すまんな、上司の愚痴程聞くに堪えんものはないよな」

「いえ、そんなことはありません!」


指揮官はかなり出来た人間だ。上に立つ者としての覚悟、そして技量を兼ね備え、部下に対する態度も丁寧だ。それでいて仲間以外には冷酷無比に対応できる、これほど味方にいて頼もしい者がいるあろうか。「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」という言葉がある。無能な味方はどんな存在よりも危険ということは、有能な味方は逆説的にどんな存在よりも頼もしいということに他ならない。現に指揮官のおかげでカイマンの滅亡は逃れたのだ。


「あいつも仲間に引き入れたいものだな」

「あいつってあの男のこと?」


サナとスペチアーレも指揮官について話をしていた。サナは指揮官のことをかなり評価していたが、スペチアーレには凡そ理解できていなかった。『サナが指揮官を認めている』、これはスペチアーレにとって腹立たしい事実でしかなかった点も含めてスペチアーレの理解を妨げる要因になっていた。サナの寵愛を受けていいのはサナの側近である私達だけなのだと、それをぽっと出の男に取られたくないと、


「なんか怒ってないか?」

「怒ってないわよ、それよりなぜ彼を仲間にしたいのか教えてよ」


サナは気を使ったつもりでスペチアーレに声を掛けたが、逆にスペチアーレを怒らせることになった。これには冷静沈着なサナも一瞬たじろいでしまう。だがここで余計な発言をすると火に油を注ぐだけだと感じたサナは、スペチアーレの質問に答えることにした。


「あいつは見た限りかなりの切れ者だ。あいつがいればお前も仕事が楽になるかと思ってな」


これはサナの率直な気持ちだ。自分の眼の届かないところでスペチアーレに動いてもらうのだ、できるだけスペチアーレが安全でいられるようにしてあげたいと思うのはサナがスペチアーレを大切に扱っている証拠だろう。それがわかったのかスペチアーレも心なしか頬を染めて少し俯いていた。


「そ、分かったわ、、、」


ピンク色の雰囲気が二人の周りにだけ纏わりついている。前列のブルーな雰囲気と中央のピンクの雰囲気がかなり対照的で、ある意味面白い状態だ。王都につくまでの間、この奇々怪々が続くことになるとはかなりの地獄であった。



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