交渉
「ハハハハハハ」
気でも狂ったか、いや目の前にいる狂言者を嘲笑したのか。否、、、
「君ならば本当に成し得そうだな!!!」
指揮官は快活に言い放ち、曇りなき眼はサナの言葉をどこまでも信じているようだった。だからと言って指揮官は「はい、わかりました」と食い下がる気など毛頭ない。カイマンがサナに害されることなく友好を結ぶこと、それが指揮官が第一に掲げる勝利条件だ。
「どうだろう?我々と手を組むと言うのは?この地を統べるにしても足掛かりは必要だろう?」
人間が人間たりえる条件は、最低限度の生活を保障されることだ。この世界は社会的強者のみが人間であり弱者は人として扱われない。サナは見る限りかなりの強者である、サナの歩んだ人生は恐らく『人間』であったと指揮官は判断した。その結果が先の発言を生んだ。
だが一つ誤算であったこと、それはサナの生い立ちを知らなかったことだ。
「必要ない、、、その程度の代価で俺がお前らを見逃すと思ったのか?」
サナにとって人間的生活など価値がないのだ。右も左も分からない幼き頃に経験した地獄に比べたら如何程の劣悪な環境でさえ無に等しい。愛する者を失った苦悩、他者から向けられる白いまなざし、これに勝る地獄がこの世に存在するだろうか、、、
「っっっ」
先ほどまで意気揚揚としていた指揮官はほんの少したじろぐ。しかし目に見えるほどの狼狽はみせない、圧倒的強者との交渉で必要なことは如何に自信を大きく見せるかである。指揮官は内心の動揺など微塵も見せずに再度サナに話しかける。
「それではこれならどうだ!我が国の名を貸すというのは?理由なき戦争はただの殺戮だが大義名分を持てば聖戦、君たちの活動を国家で後押ししよう」
サナは思わずにやける。指揮官の提案は願ってもない申し出だったからだ。国家の加護と聖戦、上手くいけばカイマンの人々だけでなく他国の人々をも取り込むことが出来るのだ。聖戦に対して矢面に立ち覇道を切り開いていく者、そのカリスマ性に付き従いたくなるのは人間の性というものだろう。これは「嫌われ者」をもつサナにとってはマイナスでしかないが、他者の制約を受けないスペチアーレにとっては圧倒的なメリットになる。人間界の統一に参加しないことを決めていたサナは、スペチアーレがより効率よく仕事をこなせるようサポートすることを是としていた。だからこそ偶然起こったこの『睨み合い』を利用することにしたのだ。
「いいだろう、その条件で。だがこの地の統一はスペチアーレに一任している。お前らが敬うべきはこの女だと理解しろ」
指揮官は思った。「サナがいないのならば寧ろ好都合である」と。指揮官の見立てでは、スペチアーレはサナにとって大事な存在である。サナの眼の届かぬうちにスペチアーレを懐柔できれば、必然的にサナをも手中に収めることができるということだ。できればの話であるが、、、
「承知した。スペチアーレ殿、これからよろしく頼みます」
サナの圧倒的な力と交渉術によって話は急進した。このやり取りについていけていなかったのは、一番の中心人物であるスペチアーレ本人であったというのは笑い話だろう。
「え?え?」
スペチアーレは疑問符を定期的に奏でるだけで会話が終わるまでまともな言葉を喋ることはなかった。




