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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
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カイマン

波の飛沫が収まる頃、サナとスペチアーレは四面楚歌となっていた。前方には敵意を剥き出しにした兵士、後方には後退を許さない海、まさに背水の陣。無駄のない陣形の組み方を見るに、兵士の訓練は余白なく洗練されていることが分かる。


兵装が一人だけ異なる指揮官らしき者が声を上げた。基本武装は変わらぬが施された装飾や配色の違いから高貴さが際立っている。それでも兵士として認識出来るのには、鍛え上げられた肉体と歴戦で刻み込まれた古傷のせいだ。


「ここは『カイマン』の統べる地!貴様ら『カイエン』の者どもか!」


『カイマン』と『カイマン』は村落の名前だ。この二つの村は隣接しており常に紛争が絶えない。日々変わる南大陸の勢力図だが、この二つの村落の関係性はサナが仕入れた情報と誤差が無いようだ。


「カイエンの兵士ではない!我々は海を越え東の大陸より来た!」


「海を越えてきただと、、、」


指揮官は少し考えに耽る。サナの発言が事実かを判断しているようだ。兵士たちは指揮官の指示を冷静に見守っている。良く統率された者達だ、指示を待ちつつも警戒を一切解いていない。彼らは指揮官の指示が無くとも、サナの動きに不審な所を見つければ総攻撃を仕掛けるだろう。戦争が生んだ判断と行動の精鋭化、彼らは皆がその能力を有している。だからと言ってサナにとっては有象無象と変わらない、あくまでも罪なき人々を殺さない為にサナは抵抗の意志を示さなかった。


「信じよう、カイエンの兵士に君のような実力者は居ない」


目の前の男はかなりの切れ者だと言うことが分かる。少しの問答と立ち振る舞いからサナを強者と認識したようだ。そしてサナと戦えばここにいる兵士が皆殺しにされることも分かっている。指揮官として、相手の分析とそれに対応する最適な判断を行ったのだ。目の前の男は有能だと言わざるを得ない。


「しかし、なぜ君たちはここに来たのかな」


嘘は通用しない。この男の眼は、蓮の眼と酷似している。蓮の眼は相手の感情が読みとることで虚言や真言を判断する、この者がどこまで知覚できているかは分からないが嘘は十中八九バレるだろう。そうなればサナの出来ることは一つしかない。


「この大陸を統一しにきた」


真実を述べるだけだ。この言葉が現状をどう変えるかは分からない、だが嘘をつくよりは万倍マシだと言うことだけははっきりしている。


「・・・・・・」


サナの言葉は静寂を生み出した。風は吹き荒れることを止め、海は波一つ起こさなくなる。無音の世界は指揮官が声を上げるまで続くのだろう。


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