リヴァイアサン3
「分かりました。期待に応えてみせます」
サナはリヴァイアサンの頼みを受け入れた。すんなりと受諾した理由には、目的の共通よりも、思想の共感が強い。
「サナ、手を前に出しなさい」
サナは言われた通りに手を前に突き出した。リヴァイアサンは差し出された手に鼻先をゆっくりとくっつけた。サナは、自身の中に何かが流れ込んでくるのを感じる。ただ不快なものではなく、むしろ心地よい何かだ。
「これは一体・・・」
「私の力をほんの少しですが差し上げます。神も異世界人に力を譲渡しているのです、これぐらいは許されるでしょう」
リヴァイアサンはウインクをしながらサナに言い渡した。伝承に残るような怪物でも意外とおちゃめなようだ。心なしか目の前の神竜が可愛く見える。
「ありがとうございます!」
サナは心からの感謝を伝えた。リヴァイアサンは満足げに頷くと、頭を反転させる。また海を回遊するつもりなのだろう。だが、リヴァイアサンは何かを思い出したようにもう一度振り返った。
「貴方は天上に嫌われているが、天に嫌われているわけではありませんよ」
それだけ言い残すとリヴァイアサンは、ゆっくりと海中に戻っていく。サナたちの乗る船を傷つけないようにゆったりと・・・
「凄い威厳だったわね」
竜と勇者の会話に全くといって参加出来なかったスペチアーレ。リヴァイアサンの姿が完全に消えた後、ぽつりと言葉を発した。
「あぁ、だが悪い奴ではなかったな」
「どうかしらね、話が壮大過ぎて、、私には追い付かなかったわ」
サナの計画を知らされた時以上の衝撃だった。それに、リヴァイアサンの発言は、意図をいまいち掴めないものばかりだ。特に最後の言葉『天には嫌われていない』は、一層難しい。
「まぁな、、でも俺たちの最終目標は神だ。このぐらいの話受け入れる器がないとな」
「うーん、サナってやっぱりどこか規格外よね」
常軌を逸した出来事の後で、これほど冷静でいられるスペチアーレも十分規格外ではあるが、当人は全く理解していないのが面白いところだ。
「受け入れるだけは誰にでも出来るだろ。そんなことより、旅を急ごう」
「そうね、リヴァイアサンのせいで食料もほとんど流されちゃったし」
目的の大陸までは残り一日といったところだ。だが先ほどの大しけのせいで食料はほとんど流され、残ったのは一人分のパンと水だけだ。順調にいけば、命に関わるような事態にはならないだろうが、念のために速め行動をとる。この面倒くさい状況を作ったことだけには、若干の恨みを持ったが、気にしても仕方がないと航海を急いだ。
そんな時、後方からすさまじい勢いで波が押し寄せてくる。リヴァイアサンが再度泳ぎだしたのだろう。小舟は勢いよく前に進みだす。この速さなら、残り半日も立たずに目的地に辿り着く、波の向きや勢いからリヴァイアサンの親切心が読み取れる。サナは少し口角を上げながら、後ろを振り返った。波の震源を見つめながら「ありがとう」とだけ述べ、再度大陸を目指しだした。




