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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
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村人の心

 二日目


 サナは、村の中を唯歩く事で、束の間の休息を過ごしていた。疲れた身体と心を癒すには、家の中で休む事だけでなく、外の空気に触れる事も大事なのである。


 村の繁華街だろか、人の往来が増えはじめた頃、サナは小さいな女の子にぶつかった。体格の差からか、サナはびくともしなかったが、女の子は勢いよく尻餅をついた。


 「すまんな、怪我はないか?」


 サナは、倒れた女の子に手を差し伸べ、立たせてあげる。起き上がった女の子は、洋服についた土を払い落とし、サナに返答した。


 「うん!大丈夫だよ!」


 元気さが滲み出ている笑顔をサナに向けた。サナは、ここ数年に陽の感情を向けられた事が無かったためか、その姿にあてられ、少し取り乱してしまったようだ。


 「そ、そうか、怪我はないみたいだが、お詫びに飴でももらうか?」


 普段のサナなら絶対にしない反応を見せてしまった。ポケットの中にあった飴玉を三粒取り出し、女の子の顔の前に差し出す。


 「もらう!お兄さんっていい人なんだね!」


 「いい人か…俺はアシハラで一番の嫌われ者だぞ。そんな男がいい奴に見えるか?」


 二人の周りには、目には見えない、黒く重たい空気が纏わりついていた。サナが、この空気を漂わせたことは、火を見るより明らかである。だが、この世界をいとも容易く砕き、この場を照らし暖める、幼くも力強い声が返ってきた。


 「見えるよ、お兄さんは優しい人だってわかるもん」


 思っても見なかった返答に、面食らってしまったサナは、言葉を紡ぐことができず、無言になってしまった。


 「お兄さんが何をして嫌われたのわかんないけど、お兄さんはきっと間違ってないよ!」


 女の子には、サナについての知識など、この瞬間で起こった事しかないはずだ。にも関わらず、女の子は、自信を持って、その言葉を発した。


 「そうか、ありがとな、嬢ちゃん」


 サナは、久しく忘れていた感情に心を浸し、この小さな出来事を深く深く魂と肉体に刻みつけた。褒めてもらえる、感謝をされる、普通の人々にとっては当たり前の事も、サナにとっては世にも珍しき事柄なのだ。


 「あっ、私、お父さんにおつかい頼まれてたんだ!じゃあね!お兄さん!」


 女の子は、足早に駆け出し、店が立ち並ぶ繁華街消えて行った。その後ろ姿を見つめ続けたサナは、女の子が視認出来なくなると、繁華街とは真反対の、村の正門に向かって走り出した。先程とは比べることすら出来ない程の威圧感を纏って…


 「後、一分ってところか…」


 静かにゆっくりと呟かれた声、だが、その声とは反比例して速さはどんどん増していく。音が遅れて聞こえ始め、人智を越えた速度に至ったサナ、正門に着くまで、三十秒とかからなかった。


 「思ったより速くついたな……なぁ、東の災害さんよ」


 上空から高速で飛来してくる物体に向けて、言葉を投げけ、構えをとる。剣は抜かず、唯一点に目線を送り続ける。飛来物が地面ぶつかる直前、サナは動いた。その物体を掴み村の外に思い切り投げ飛ばしたのだ。土埃をたてながら、直線状に地面が削れていく。その崩壊は侵食し続け、村から数km離れた場所でピタリととまった。サナは、瞬時にその場にたどり着き、一点をみつめた。


 「この程度でやられてはいないだろ」


 土埃が大きく舞い、姿は確認できないが、サナは当然の如く、何かに向かって話しかける。

 その瞬間、土埃を一瞬にして吹き飛ばす、鋭い斬撃が繰り出された。


 「クソが!人間の分際で気安く触れやがって、この俺様が東の災害、ジャックと知っての狼藉か」

 

 「当たり前だろ、お前ほど目立つ悪魔はそういないからな」


 一つ目の村にして、最上位悪魔の襲来。本来なら絶望しかないこの状況で、サナは唯、悠々と言葉を発していた。


 




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