即答
「・・・・・」
『またね』が本当になるとは思っていなかった。まさかこんな形での再会など予想だにしていなかったサナは言葉を詰まらせる。
「サナ、どうするの?」
スペチアーレはエリーの処遇をどうするのかを簡潔にきく。金鶴と蓮はある程度サナの決定を予想しているのか、静かに言葉を待っている。サナと同じく、エリーのスキルや現状をつい先ほど知ったスペチアーレだけが、不安を持ちながらサナを見守っていた。
「エリー、お前のスキルが発現した以上は、元の家にいても危険だ。だからと言って俺たちについてくれば、家族の下には戻れない。お前が自分で決めろ」
子どもには酷な質問だ。身の安全と親類との決別、それを天秤にかけるなど、困難な選択でしかない。この選択を即座にできる者など、存在するのだろうか・・・
「サナと一緒にいるよ!」
サナの質問に対して、エリーは間髪入れずに答えを出した。これにはこの場に居た者すべてが驚く。エリーの出した答えにではない、エリーの決断力の速さにだ。
「そんなに簡単に決めていいのか?」
「うん!」
サナはエリーの頭に手を乗せる。何度か頭を撫でると、エリーは猫のように目を細めて頭を摺り寄せてきた。サナへ懐いていることがよく分かる姿だった。
「エリー、今日からお前は俺たちの仲間だ。これからよろしくな」
サナはそれだけ伝えると、エリーの頭から手を離した。エリーはサナに頭をまだ撫でていて欲しかったのだろう、名残惜しそうに、そして不服そうにサナの手を見つめていた。人の好意だけには鈍感なサナ、エリーの思いに微塵も気づけていない。顔だけを蓮に向けて、話し始めた。
「蓮、エリーを城に連れていけ。身の安全は絶対に保障しろ」
「あいあいさ~」
蓮は期待した通りの答えが返ってきたことで、快活に返事をした。エリーを見ていれば、エリーがサナに好意を持っていることなど容易に汲み取ることができる。若く経験の浅い女は、何よりも男を選んでしまうものなのだ。蓮と金鶴にとってエリーの選択は想定通りのものだったし、サナの行動も分かっていた。ただ金鶴にとって不服だったのは、サナを狙うライバルが二人から三人になったことだ。
「俺はこれからこの海を渡る。せっかくだ、スペチアーレも一緒に城にもどしてやってくれ」
「なんでよ」
「リヴァイアサンに遭遇するかもしれない。出来る事なら危険な目には合わせたくない」
「いまさら危険もなにもないでしょ。私はサナと一緒にいく。これは決定よ」
スペチアーレの決意は固い。これは何を言おうとも揺るがないだろう。元々、気高く、勇気を持っていたスペチアーレだが、サナとの時間を過ごしていくうちにより一層強くなったようだ。サナの心配をよそに、スペチアーレは小舟へと乗り込んでいく。行動をもってサナの言葉を否定しているのだ。サナは、今日何度目かの溜息を吐き出すと同時に、自身も船に乗り込んだ。数日の航海がやっと始まる。




