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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
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別れ

サナはスペチアーレの住む家から少し離れた場所で空を見つめていた。雲はゆったりと佇んでおり、頬をくすぐる程度の風が土のにおいを仄かに誘う。今生の別れを盗み見るほど無粋ではない。今は見えない星に願いを込めて、時間が経つのを待った。


スペチアーレの両親は、泣き腫らした顔で憤怒を明らかにしていた。娘を失う親の心は他人には計り知れないほどの苦痛だろう。怒りを込めた言葉には隠しきれないほどの悲しみが混じっていた。国を追放されるなど末代までの恥、だがそれでも大切な我が子を失う。今の二人からは、娘と共に国外へ追従したいと思うほどの覚悟がそこにあった。だが、それを堰き止める存在、スペチアーレがいた。両親の剝き出しになった悲しみと怒りの感情を前にしているにも関わらず、表情に変化が全くなかった。その無機質さが両親の思いを留まらせていた。自身の娘からは、何も感じられない。別れに対する寂しさ、追放されることへのうしろめたさ、何一つ感じることが出来ないかった。


「ママ、パパ。ごめん」


両親からの愛の説教を受けてだしたスペチアーレの言葉は余りに機械的なものだった。ただの空気の震えでしかない、言霊ではない、ただの揺れだった。


絶句する二人をおいて、スペチアーレは踵を返す。もうやることは終わったと言わんばかりの態度に何も言えない。最後に見た娘の顔はどこまでも仮面に見えていた・・・


スペチアーレには悲しみが分からなくなっていた。頭ではわかっているのだ。自分は今辛い体験をしているのだと、だがどうしても心が揺れない。両親の感情を理解することは出来るが感じることができない。


サナの待つ場所に向かって歩くスペチアーレの顔を見たものはいない。ただスペチアーレの雨を受けた地面の土だけが彼女の歪な顔を見ていた。無表情に垂れる雫は昔の名残だろうか、それとも心に深く刻まれた愛の残りカスだろうか。


ほんの少しの雨はすぐに止んだ。残っていたなにかは体外に排出され、もう戻ることはない。呪われた幸福の引き換えに捨てたモノ、愛しき人が待つ場所に到着するまでに、スペチアーレの顔はいつものものへと戻っていた。


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