実態
蓮は目の前の人々が望んでいる言葉を送った。自身が大罪を犯した理由を・・・
「アシハラ国国王カマロ・ピニオンギャに召喚された時、私は取引を持ち掛けられました。王直属の部下となるか国外へ追放されるか。国民を多く救いたいという私の意志と、国王の邪な感情が読み取れたことから、私はあのような行動に出たのです」
含まれた意味には、『私は国民のために戦っている。国王は歪んだ感情を持っている』という二つのものである。滅私奉公を貫く神の使いと、悪の感情をもつ一国の王、立場上でも行動でも、信頼には差がついている。
「なぜ貴方は国王の感情を読み取れるのですか?」
最もな疑問だ。常人からすれば、相手の感情を読み取るなど出来るはずもない。証拠を伴わない証言など、ただの虚言なのだ。
「私は高潔の使徒として召喚されるとき、感情を読み取る目を承りました。その目を使えば、造作もないことです」
蓮は虚言を吐く、本来もらったスキルは不死身であるが、感情を読み取る目をもらったと偽ったのである。蓮の目は100%の確率で感情を見抜くことが出来る。だが、それを経験によって身に着けた後天的なものと言うよりも、神からの贈り物と言う方が、信憑性が段違いになる。
人々は納得の顔を浮かべている。それだけ神の力は信頼を得ているのだ。
「私はこれまで壁外で調査をしてきました。国王が派遣した勇者がどのような活動をしてきたのか、国王に対する不満などを。出てきてくれないか?」
複数の男たちが現れた。服に刻まれた紋様から、男たちの出身村が各々異なることが分かる。
『これまで来た勇者は自分たちを守ってくれない』『無償で物資を補給しなければ兵士が攻めてくると脅されている』『悪魔の数が毎年変わらないどころか増えている』出てくる言葉は、悪いことばかりだったが、表情と声から、それらがただの悪口ではなく懇願に聞こえた。
「私はアシハラ国国王であるカマロ・ピニオンギャを断罪するつもりです。そして壁内外の壁を無くすつもりです」
国民は難色を示すことなく蓮の言葉に肯定の態度をとった。それから話はトントン拍子で進んでいった。国王の断罪と家を失った人々の救助を話し合っているうち、蓮と国民は急速に距離を縮めていく。蓮の砕けた話し方が許容されるほどに。




