人の死
焼けた家々の中には人々の死体は確認されていない。道端に死体は転がっているが、惨殺されただけで焼けてはいない。にも関わらず、人の焦げた香りが延々と流れてくる。匂いの元を探していたわけではないが、ただ歩いていると匂いが濃くなってきた。火の粉が上がり、黒煙がモクモクと上がり続けている場所が見えた。山積みになったナニカが燃料となり、火が火力を失わずにいた。
「人の山か・・・」
死体の山が轟轟と燃えている周りでは、多くの人々が咽び泣いていた。涙はずっと前から出続けていたのだろう。目元は腫れあがり、涙は出ず、声は枯れていた。それでもサナの目には、滝のように涙が零れ、サナの耳には、天に轟くほどの声に聞こえた。
「おい、何があった?」
サナは分かり切ったことを泣き崩れる男性に聞く。泣き腫らした目に宿る憎しみ、その憎悪が誰に向けられたものなのかは分からない。
「突然悪魔の軍勢が攻めてきたんだ!俺たちはどうすることも出来ずに・・・」
男の言葉の続きは聞かずとも分かる、いやサナにとっては聞くまでもなく知っていたことだ。
「それは大変だったな・・・」
サナの他人事な台詞に男は怒りの目を向ける。それと同時に気づいたようだ。目の前にいる男が勇者であることを。
「お前何をしてたんだよ!お前らがちんたらしているから!俺たちは!」
胸倉を掴む手はサナにとっては子どもの力程度にしか感じられない。だが人の思いが、怒りがサナを縛り上げる。
「俺たちは魔王を倒した。その間のアシハラのことなんて知るかよ」
サナの言葉もまた否定できない。人々を守り切れなかった勇者は責められるが、魔王討伐をしながらすべての人々を守ることなど出来る訳もない。この不可能を承知でも恨みはそれらを蔑ろにして言葉を発してしまうのだ。
「そんな言い訳通ると思っているのか!」
「いいわけじゃない、理由だ・・・」
サナの言葉には言い訳などない。本来やるべきことをしなかった時に使用するのが言い訳なのであり、本来やるべきことではなかったことに対しては理由を述べるだけだ。
「それでも勇者かよ!」
サナの胸倉を掴んだ手に力を籠め、もう片方の手でサナに向けて拳を放とうとしている。
「やめろ!」
聞きなれた声が聞こえてきた。蓮の登場である。
「蓮さん!でもこいつがいれば・・・」
「分かっている、そのことについては俺がちゃんと話しておく。君たちは亡き人達を供養してあげなさい」
男は蓮の言葉を聞いて、ふと悲しみに沈んだ。怒りで忘れていた悲しみを思い出し、絶望の波に呑まれたようだ。
「君が勇者だね?少し話がしたい、付いてきてくれ」
仕組まれた会話が展開される。知らぬが仏のこの世界、真実を知ればすべては悪魔に見えるだろう。




