凱旋
北の魔王城にて、数日を過ごしたサナたち。これから転移門で帰還しようとしていた。ここ数日は、魔王城でただ平凡な日常を送っていた。唯一変わったところと言えば、蓮が暫く出払って居なかったと言うことだけで、それ以外はサナとスペチアーレ、金鶴、銀鶴と談笑したり、食事をしたりしていた。
「スペチアーレ、そろそろ頃合いだ。転移門でアシハラに帰還するぞ」
「頃合いって何よ、さっさと帰ればよかったのに」
軽口を返しながらも、転移門を開く準備を開始していく。数秒とかからず転移門はアシハラ国の正門に繋がった。
「今日は凱旋だし、門の前でいいでしょう?」
スペチアーレは民衆からの賛美を予想して、自身の家ではなく正門に転移先を指定した。
「あぁ、それで構わない」
サナもスペチアーレの行動に素直に従う。転移門が開き二人は門をゆったりとくぐる。繋がる先は、栄えあるアシハラ国・・・ではなく、凄惨な土地だった。
「なに・・・これ」
「アシハラ国だよ。数日前に謎の悪魔に襲われただけさ」
目の前に広がる世界は悲惨なものであった。原型を留めていない正門、建物から上がる煙に紛れて漂う焼けた人間の匂い、そして明らかに人だったモノがゴロゴロと転がっていた。
「サナ、貴方が命令したの・・・」
蓮が不在であった理由はこれだと推理したようだ。謎の滞在期間もこの惨状を創り出すための期間だったことも理解する。
「あぁ、その通りだ」
今までのスペチアーレであれば、サナに激昂し、絶望していただろう。だが、金鶴の魔法によって壊れた感情では何も感じることは出来なかった。ただ昔の名残で体が、声が勝手に動いていただけだ。
「責めないんだな」
「分かっているくせに・・・」
スペチアーレが愛憎の感情以外を失っていることをサナは知っている。金鶴と銀鶴の前例を持って知っている、それでも聞いてしまうのはサナの心の弱さなのだろう。
「・・・・俺たちはこれから責められるぞ。国を守れなかったんだからな」
国を攻め落とさせた張本人が、国を守れなかったという。
「目的は知らないけど、貴方に一生付いていくわ」
飛び切りの笑顔にサナは一瞬たじろぐ。覚悟を決めた女性の美しさと強さには敵わないなと思いながらサナは目線を正門に向けた。魔王討伐とうい大義を果たした勇者の凱旋は、歓声も賛美もなく、燃え盛る炎の音と燻る煙だけが歓迎していた。




