役割3
「それにしても変ね、サナがベリアルを生かしてるなんて」
金鶴がサナに向かって、ほぼ独り言のような言葉をぶつけた。金鶴は分からないのだ、ベリアルの存在は、サナにとって不快なものでしかない。そんなベリアルをサナは受け入れたというのが不思議でならないのだ。
「生かすつもりはねぇよ、使えなくなったら殺すさ」
『殺す』、サナの言う殺すは人間が使う脅しのようなものではない、本当に実行される真実でしかない。なんとも重い言葉である。
「まぁ、これで東の魔王の代理は決まった、北の魔界も金鶴、銀鶴が表立って取り仕切れば暫くは大丈夫だろう。制御が難しくなってきたら、他の魔界から誰かをスカウトするしかないな」
「でも、今までの魔王たちは交流があったのでしょ、魔王代理を務められるといったら幹部クラスの悪魔が必要になる、幹部の顔は知られているんじゃない?」
金鶴がサナのスカウトの話に疑問を投げかける。サナが魔王グレート・サタンになるまでの数百年間、各地の魔王は交流を持っていた。魔王を含めた幹部はみな顔見知りだ。その状態で、よその幹部を代理に立てることは難しいだろう。
「そこなんだよな、日々悪魔は増えているとは言え、幹部クラスの悪魔が生まれる可能性はほぼ皆無、天使を無理やり堕天させるか・・・」
堕天使、神に背き空を追われたものの呼び名だ。現魔王の中にも一人だけ存在する強力な生物である。
「魔王クラスの堕天使となると最低でも熾天使たる四大天使、幹部クラスでも智天使か座天使を堕天させなければならないわね」
なんとも不遜な話し合いだ。天使を、それも上位天使を堕天させようと話しているのだ。なんとも罰当たりものの会話ではあるが、魔王であるサナと、悪魔である金鶴は存在自体が罰当たりものだ。今更気にする必要などない。
「あなたたち、ほんとうにそんなことするつもり?」
スペチアーレが不安そうに聞く。魔界統一、人間界統一だけでなく、天使にも手を出したとなると神が黙っていないだろう。とてつもなく危険な懸けになるのだ。
「遅かれ早かれだ。さっき言ったろ、神も含めて統治すると」
そんなこと出来るわけない、そう発言しようとしたスペチアーレだったが、サナの言葉で発言を強制的に封じ込まれた。
「それに策もある。本来はもっと時間がかかるはずだったがな」
神をも治める策、そんなものが存在するなど俄かには信じられない。サナはスペチアーレの顔を見て、説明を付け加えた。
「策は今この場にいるぞ、このふざけた男が策だった」
『策だった』、不思議な文法だ。まだ神とは対峙すらしてないのに、もはや策は打たれたような言い回しだ。
「高潔の使徒が皆、優れた力をもって転生してくるのは知っているよな?」
「ええ・・・」
「なら力の源はどこか知っているか?」
「源・・・?」
考えたこともなかった。噂では、転生する前に神から力を授けられるとしか言われていない。その力自体がどこからもたらされたかなんて気にしたこともなかった。
「不死身だったり、万物創造だったり、そんなチート能力の出所は一つしかない。元来、神が保有していたスキルだ・・・」
「神が保有していたスキル・・・」
保有していたスキル、つまり今神はそのスキルをもっていないことになる。だが、それが策となんの関係があるのかスペチアーレには、まだ分からない。
「不死身、それがある限り神を引きずり下ろすことは出来なかった。だが、蓮が不死身の力を受け取ったことで、今の神は不死身ではない。本来不死身なんてスキル誰も選らばないから神との対決はもっと先になると思っていたがな・・・」
神は世界を造り、圧倒的な強さを持ち、不老不死の存在であった。太古の昔、神は常に世界を眺め、人々、悪魔の暮らしを安定させていた。だが、その役目を放棄し堕落した神は、転生者に力を貸し与えることで、世界の安定を他人に委ねたのだ。今の神は、不老であり圧倒的な力を持つだけの存在だ。肉体が時を刻むことはないので、老いで死ぬことは無いが、致命傷を受ければ死んでしまう。
「不死身なんて便利な力をなぜ誰も選らばなかったの?」
「雑魚が不死身になろうが意味はない。ただ実験動物として永遠に嬲られるだけだ。蓮みたいな戦闘能力がない奴が持っても無用の長物になるんだよ」
蓮の存在は神にとっても、サナたちにとってもイレギュラーだった。神は味方ではないが、運はサナたちに味方してくれている。神は運に見放されているのかもしれない・・・




