役割2
「後は、東の魔界の統治、そして北の魔王の存在についての方針を決めるぞ」
東の魔界の統治、そこにある問題は、新魔王を立てるか、はたまた北の魔王の領地とするか、勇者に滅ぼされたことにするか。目下の問題はここにある。
「このまま滅ぼすではだめなの?」
悪魔から人間を守ることを固く誓っているスペチアーレは、滅ぼすことを申し出た。だがサナは、その意見には同意しない。
「いや、俺としては北の魔王、つまりサタンの領地にするほうがいいと思う」
自分のことを他人のように呼ぶ姿は素っ頓狂だが、二つの顔を使い分けるサナにとっては、必要な所作だった。
「傀儡の悪魔を新魔王に立てるのではだめなの?」
銀鶴が首をコテンと傾けてサナに質問をする。
「いや、傀儡の魔王を立てるのは決まっている、だがそれがサタンの傀儡であると言うことを周知に分かるようにするんだ」
傀儡であることを敢えて、分かるようにするメリットがあまり湧かない。しかし、確固としたメリットが存在しているのだ。
「俺の『嫌われ者』は、名にも効果がある。スペチアーレ、お前は運を憎んだり、家庭環境を憎んだりしたことはないか?それと同じで俺の名、存在に恨みを持つだけで効果は発動するんだよ」
サナが英雄杯前日に嫌われた時も同じ力を使っていた。マスタングとサナのいざこざを目の前で見たものは少ない。にも関わらず、サナのステータスはかなり向上していた。これは、サナという名前と存在に対して壁内の村人全員が嫌悪を抱いたためだ。
「傀儡であることが分かれば、旧東の悪魔たちはサタンに対して恨みをもつだろう。それが狙いだ」
「あなたが直接統治するのでは、ダメなの?」
当然の疑問だ。わざわざ傀儡などの二度手間を行わずとも、サナが直接統治し、恨みを買う方が楽なのだ。
「俺はこれからも勇者の名を使って動く、悪魔だろうと何だろうと、顔を余り出すつもりはない。北の魔界でも俺は一度も顔を見せていないしな」
北の魔王の情報が少ない理由も、サタンの露出が皆無であることが原因だ。サナが世界を統一するまで、サタンの詳細な情報が出ることはない。
「分かったわ、では、傀儡に使う悪魔はどうするの?」
スペチアーレは、サナの言葉に納得し、次なる問題、傀儡に使う悪魔についての質問をした。
「それならもう当てがある、ドラークの元部下、魔王軍幹部のベリアルだ」
ベリアル、ドラークを裏切りサナの配下に下った薄情者、心まで腐りきった本物の悪魔のような存在だ。
「あなたいつの間に敵を取り込んでいたのよ」
「取り込んだわけじゃない、あいつが勝手にこちら側にきたんだ」
役割がどんどんと決まっていく。サナたちの道は気味が悪いほどに順調に進んでいった。




