調和
「方針は決まったようだし、取り敢えずあなたに魔法を掛けさせてもらうね」
金鶴はスペチアーレに向かって可愛らしく、あざとく言い放った。
「へ?」
スペチアーレは素っ頓狂な声を上げたが、金鶴はそんな反応を無視して魔法を放った。金鶴の掌で生成された黒いモヤは、スペチアーレの心臓目掛けて進み、胸に触れるとゆっくりと吸収されていった。
「なに?この魔法・・・」
スペチアーレは自身になんの変化もないことで、疑問が深まる。
「直にわかるよ」
金鶴が言った途端、スペチアーレの中で、憎悪が渦巻いた。サナがとてつもなく憎い存在となっていくのが分かる。
『これが手伝うってこと・・・こんな憎悪の中サナを愛し続けられるの?』
スペチアーレは、苦しんでいる。身を焦がすほどの憎悪を抑えこまんと、内部で感情が戦っているのだ。だが、恨みの勢いは止まらない、身の内にある感情のすべてが、徐々に染められていく。
『このままじゃ・・・わ、た、し』
スペチアーレは、自身の状態に焦っていたが、外から聞こえる金鶴と銀鶴の声が聞こえてきた。
「落ち着いて、自身の愛を感じなさい」
「愛を見つけ出して」
二人の言葉を受け取り、スペチアーレは憎悪の渦の中、サナに対する愛情を探り始める。微かに感じる温かい雰囲気、その出所を辿れば見つけられると直感し、集中した。手を伸ばせば、何かに触れた。触れたナニカはスペチアーレをゆっくりと包み、憎悪の波から守った。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「どうやら成功したようね、これで貴方は傍に居ることができるわ」
スペチアーレの感情は、狭く深い愛情と、広く浅い憎悪で染められた。それ以外の感情がさっぱりと消えている。この感情は人として欠陥だが、後悔はなかった。
「感謝はするけど、乱暴なのよ」
スペチアーレは、金鶴に軽口をいった。
「成功したんだからいいでしょ。それじゃサナを呼び戻してくるわね」
金鶴はサナが出ていった部屋に向かっていった。金鶴とサナの声、そしてもう一人聞いたことない男性の声が聞こえてきた。スペチアーレは不思議に思っていたが、今は何もする気が起きない、サナたちが入ってくるのを黙って待っていた。
「お~、無事に成功したみたいだね~」
入ってきたのはサナと金鶴、そして蓮だった。スペチアーレにとっては初対面だったが、蓮はフランクに話しかけてきた。
「こうなったか・・・・」
サナは悲しそうな、うれしそうな顔をしている。前例として金鶴、銀鶴の内部闘争をみていたサナにとって、今スペチアーレが持っている感情は良い物とはいえないことを知っている。それでも、スペチアーレを殺さずに済んだことにうれしさを持っているのだ。サナのスキルは、本人も他人も不幸にしている・・・・
「気にしないで、私が決めたことよ」
スペチアーレは、サナの感情を見透かしたように答えた。その言葉はサナにとって心の救いとなった。




