金鶴と銀鶴2
「どういうこと?」
スペチアーレは金鶴にまたもや質問する。彼女との会話では質問が絶え間なく出てくる。
「私達は親から虐待されていたの。日々殴られ脅され、時には体を売らされたこともあった、地獄のような日々だった。サナはそんな私たちの親を殺して私達を救い出してくれた。でもね・・・そんな親でも私たちにとっては唯一の大切な親だったの。その結果、私達はサナを殺したいほど憎み、死んでもいいくらいにサナを愛してしまった。二律背反の感情を持つことで、サナの傍に仕えることが出来ているのよ」
金鶴と銀鶴は、好意と憎悪を相殺することで、サナの強さに影響を与えないようにできている。サナの傍にいる為には、その歪な心にならなければいけない。スペチアーレはその感情を持つことが出来るのか、金鶴はそれを問おうとしていることが伝わってきた。
「私はフォードさんが、大切な仲間が殺されたのに、サナに対する気持ちが消えない。恨みをかき消すほどの気持ちが燻り続けている・・・・」
サナに命を救われた、ただそれだけの事実と、サナの過去、そして今までの思い出がスペチアーレの胸の内に巣くっている。チョロい女だと思われるかもしれない、それでもスペチアーレにとってこの暖かい気持ちは、嘘ではなかった。
「はぁあ、面倒くさい女ね・・・。サナの傍に居たいならどうあっても彼を憎みなさい!」
なんとも不思議な言葉だ。サナを思うが故にサナを憎め、普通の人生では聞くことがない文法だ。
「そんな事、出来るわけないじゃない!」
スペチアーレにとってその摩訶不思議な感情を持つことは難しく感じられた。それを面倒くさいと言われたのだ、激怒するのも無理はない。
「あなた、さっきサナの考えには納得できないと言った。それならそれを恨みの原動力にすればいいと思うの」
金鶴の性格と言い方では、話が平行線になると察したのか、銀鶴がアドバイスをした。
「サナの考え・・・?」
「うん、サナはこれから選別をする。いい人と悪い人、その違いで人間や悪魔を分けるの」
良い人と悪い人、なんともアバウトな分け方である。付け加えるとした、サナが判断したいい人と悪い人だろう。基準にはサナの主観がメインで含まれ、罰にはサナが決めたものが施行される。行動は最早暴君だ。
「サナの決定は貴方にとって納得のいかないものが多くある。それを恨みに変えるの。勿論私達もあなたの気持ちを制御できるように手伝う」
銀鶴の言葉は、スペチアーレにちゃんと届いた。サナの隣にいる方法、それがクリアにはっきりと見えたのだ。後は覚悟するだけ、サナを愛し続けられるか、サナを憎み続けることができるか、その歪な心をもって自身が耐えられるか・・・・
「私、決めました・・・」
金鶴と銀鶴は僅かにほほ笑んだ。彼女たちは、スペチアーレが仲間になることを望んでいた。サナが大事に思う人を殺したくはない。愛する人の大事にしているものに嫉妬など抱かない、嫉妬なんかよりもドロドロとしたものを腹に抱えている二人にとって、そんなもの屁でもないのだ。




