修行4
修行最終日
「大分強くなったな」
「あぁ、自分でも実感できるほどには強くなれたのだよ」
「私も完璧に魔法を覚えたわ」
サナたちは、自信に満ちた表情をしていた。新たな技術、心構え、技を得たこと、更には一か月間の悪魔の軍勢との闘いで上がったレベル、それらが彼らの自信につながっているのだろう。
「二人ともレベルはどれほど上がったのかね?」
「私は、85になりましたわ」
「俺は、90だ」
「私は95になったよ。皆そろそろ限界レベルになるのだね」
フォードの質問にサナとスペチアーレは答えたが、サナだけは嘘をついていた。サナの本当のレベルは120、本来の限界レベルを超えていたのだ。固有スキル「向上心」の効果だろう。経験値上昇とレベル上限拡張がこのスキルの能力だと考えられる。だが、未知のスキルのため、上限レベルの限界はいまだ不明である。
「明日の禍時に魔界に突入する。覚悟をきめておけよ」
「わかってるわ」
「勿論だとも」
サナの呼びかけに決意を示したふたり。明日から始まる本格的な冒険、3人とも覚悟は十分だった。
夜が深まるころ、サナは、修行の師であるベンリィのもとにいた。この修行の日々で、サナがベンリィに好感を持ったように、ベンリィもまたサナに好感を抱き始めていた。サナは今夜中にベンリィからの印象を悪くしなければいけない。サナは改めて自身のスキルを呪った。好きだからこそ、彼らを守るために嫌われなければならない・・・
「今までありがとな、ベンリィのおかげで強くなれた」
「俺こそだよ、勇者なんて力だけの屑だと思っていたが、修行姿を見て考えが変わったよ」
サナはベンリィの言葉に内心仄かな幸せを感じていた。自分を認め、褒めてくれる、サナが久しく得られなかった言葉に頬が緩みそうになる。だが、必死で歯を食いしばり、表情筋を駆使しして平静を装った。
「お前の考えは間違っていなかったよ。俺は力と技術を身に着けた。もう俺に歯向かえる奴はいない。」
サナは、ベンリィの呼び方をお前に変えた。この些細な変化ですら、信頼関係を築いていた者たちの間では、一つの起爆剤になる。起爆剤は、サナの傲慢な発言の爆発力を大幅に上げた。
「なっ!お前は人々のために頑張っていたのではなかったのか⁉」
「そんな訳ないだろ。今までの修行もこれから魔王を討つことも、全て俺自身の力と名声のためだ」
サナは、止めない。止めてはいけないのだ。確実に嫌われなければ、支障がでてしまう。サナは、ベンリィがギリギリ意識を保てるように調整したパンチを、ベンリィの腹部に叩き込む。
「がっ!くそっ、俺はこんな奴のために・・・」
ベンリィは膝をつき、途切れそうな意識の中、サナに対する恨みをつぶやいた。
「ありがとな・・・」
サナは、下卑た笑みを浮かべ、膝をついたベンリィに蹴りを振るった。サナの言葉は本心だったが、下卑た笑みが素直に言葉を受け取らせない。ベンリィは恨みを確信に変え、意識を失った。意識のないベンリィには、涙を流すサナの顔を見ることは出来なかった。




