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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
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騒動

凍り付いた空気を壊したの以外にも酔っぱらっていた男たちの一人だった。


「うるせぇよ、何もしてくれない勇者なんて実際いらねぇんだよ」


男は、酒の力もあって、素面ならば絶対に口にしない言葉を吐き出した。残った理性で声を荒げることは無かったが、心の声が漏れてしまったのだ。だが、この男の発言は、せき止められていた水を決壊させた。


「そうだ!そうだ!蓮様さえいればいいんだ!」

「さっさとアシハラにもどれ!」


感化された男たちが語気を荒げて追従した。勇者に対する酷評ぶりにスペチアーレもたじろいでしまう。だが、先ほどから気になる名前があり、遠慮がちに聞く。


「蓮様とは誰かしら?」

「蓮様はムーキ村周辺の悪魔たち退治してくれた立派なお方だ、傷だらけになりながらも戦う姿は、まさに勇者だった」


ムーキ村周辺に悪魔が少なかった理由は、蓮と言う人物のおかげらしい。


「その人は今どこに?」

「もうこの村にはいない。他の村に向かったよ」

「そう、ではその人の特徴を教えてもらえないかしら?」

「あんたら、蓮様になにかするつもりじゃないだろうな?」

「違うわ、私たちがやるべきことをやってくれたようだからお礼がしたいのよ」


これはスペチアーレの本心だ。勇者のことを馬鹿にされたのには憤慨しているが、蓮という人物にお礼がしたいと思ってしまうのは、彼女の人々を救いたいという心からきている。

スペチアーレの目を見て、その言葉を信じたようだ。男たちは蓮の情報を伝える。


「ローブで顔を隠していたから俺たちも分からないんだ。だが、声は男性のもので、赤い瞳をしていた」

「そう、ありがとう。でも勇者を馬鹿にはしないでちょうだい。歴代の勇者も今の勇者も皆頑張ってきたわ」


男たちは口を噤む。今の勇者は知らないが、歴代の勇者は何もしてくれなかった。だが、目の前にいる少女はそんな者たちを尊敬しているように見て取れた。これ以上何かを言うほど、村の男たちも無粋ではない。


「悪かったよ」

「いえ、こちらこそ、貴方達を助けてあげられなくてごめんなさい」


冷え切った空気は、だんだんと温度を取り戻していった。スペチアーレとフォードは食事を再開する。


先ほどのスペチアーレの発言は一つの考えの変化を表していた。歴代勇者のようにサナも頑張っていると認める発言だった。スペチアーレは確実にサナを見直している。その事実に、スペチアーレ本人はまだ気づいていない。この先自身の気持ちに気づくことはあるのだろうか。


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