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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
31/102

ベアウルフ

「どこに向かっているのかね?」

「ただの散歩だよ」


サナがベアウルフを探していることは行動から明白だ。ただ、邪気が漂う空気に、口が寂しくなったのか、フォードは意味のない問いかけをした。勿論サナも、適当にはぐらかす。今の会話に一切の発展性はなく、ただこれから出会うであろう強敵とのことを考え、フォードは声をだしただけだった。


「ツンデレと言うやつなのかしら」

「違う、本当にただの散歩だよ」


スペチアーレには、これから出会う強敵との危機感が無い。ベアウルフは上位悪魔であり、並みの勇者では、かなりの強敵となる。しかし、彼女は畏怖していなかった。歴代勇者の虚偽の英雄譚を読み漁った結果として、ベアウルフは強い魔獣ではないと誤認しているのか、それともサナの強さに絶対的な信頼を抱いてのことなのかは、スペチアーレ本人にも分からなった。


「グルルルル・・・・」


地を這うような低いうなり声が聞こえた。その声は、地震と錯覚してしまうほどに大きく、大地を揺らした。威嚇だけでこの力、上位悪魔に恥じない威厳を持っていた。


「ベアウルフがでたわよ」

「何者にも従わない孤高の悪魔、まさに暴君」


ベアウルフは、悪魔でありながら魔王の支配に組さない特殊な存在だ。ベアウルフは、何物にも従わず、何物にも媚びない。ただ目の前にあるものを破壊し続ける。暴君と言われる所以だ。


「まぁ、上位悪魔と言ってもただの犬だろ」


サナは、目の前の化け物を犬といった。本来そのような言葉を吐ける人間などいない。四足状態で威嚇する姿は狼そのものだが、牙や爪は熊を思わせる。毛皮は鋼並みの硬度を誇り、全ての姿形が絶望を体現していた。ゆうに5メートル超える巨体は、見ただけで恐怖を感じさせる。そんな化け物を「ただの犬」と言える人間がこの世にどれほどいるだろうか・・・


「お前らにはキツイ相手だが、どうする?」

「そうだね、出来ればサナ君にも協力してほしい」


サナは若干残念に思った。ここでフォードが見栄を張り、協力を仰がなければ確実にフォードは死んでいただろう。今回の旅が始まってまだ日は経っていないが、サナはフォードのことを心から嫌っていた。サナの過去と現在、二つの視点からフォードに憎悪をもっているのだ。


「はぁ、わかったよ。この程度で協力を求めるとは。歴代の勇者パーティーの底が知れるぜ」


協力せずにフォードが死んでしまったとなれば、サナの責任は免れない。嫌々ながらも協力を了承しながらも、代わりに罵倒をプレゼントした。


「ぐっっ」


フォードの賢いところは、自身の危機を感じればプライドをいとも容易く捨てることができることだ。嫌な顔をしながらも、文句を漏らすことはなかった。


「一瞬だけでいい、ベアウルフの動きを止めろ」


サナは妖刀を鞘から抜き、二人にベアウルフの動きを止めるように命令した。


「エンゲージスワップ」

天縛(てんし)り」


スペチアーレは回避不能の捕縛魔法を使った。対象の足元に沼を召喚し、下半身の動きを封じる技だ。沼に足を取られ動きが鈍った隙にフォードが金縛りの魔法を掛ける。


ベアウルフは強力な悪魔だ、二人の拘束では、1秒ももたずに解かれるだろう。だが、サナにはその一瞬が作れれば問題ない。サナは大きく飛躍すると、妖刀をベアウルフの首目掛けて振り下ろした。


九鬼断頭(くきだんとう)


ベアウルフの首が地に落ち、絶命した。切られた断面からは血が止めどなくこぼれる。上位悪魔といえども、死した姿は空しいものだった。


「おかしい・・・」


レベルアップの音を聞きながら、サナは一言言葉を漏らした。


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