宝鎧
アシハラ国の王城内、国王の前には反逆者の首をもったサナがいた。
「高潔の使徒ムーン・ザ・リッパーの首を取って参りました。ご確認を」
生気のない青白い頭部を国王の前に差し出したサナは、数歩下がり片膝をつけ言葉を待った。
「ふむ、間違いなくムーン・ザ・リッパーの首だ、討伐ご苦労だった」
「ありがたきお言葉、感謝致します」
「褒美をやろう、何か申してみよ」
「それでは宝鎧をお貸頂けないでしょうか?」
「ふむ、宝剣だけでもアシハラにとっては重要なものだ、その上宝鎧もよこせということか」
「はい、私は任期の間に東の魔王を討伐してみせます。その際宝鎧が必要なのです」
「なんと、本気で魔王を討つというのか!ならば宝鎧を貸そう、だが宝剣、宝鎧はアシハラの至宝。絶対に失ってはならぬぞ」
「はっ!」
国王カマロ・ピニオンギャとの交渉も終わり、宝鎧の持ち出しを許可された。歴代勇者の中でも、宝剣と宝鎧の二つを装備したものは数えるほどしかいない。
宝鎧の能力は至って単純だ。闇の魔法を完全無効化することができる、ただそれだけだ。闇以外の魔法はすべて防御力0になる。闇以外の魔法には無意味も同然の鎧である。
「これで東の魔王は容易く葬ることが出来る・・・」
サナは順調にことが進んでいることに満足していた。魔王は現在4人しか存在しない。アシハラを含む、東の地を統べる魔王ドラーク・ブラウ。ニーゲンドン王国を中心とした北の地を統べる魔王テイヒゥル・ヴァイス。ニーラカナイ法国を中心とした南の地を統べる魔王ヴォーヒゥル・ロート。ユードラシル帝国を中心とした北の地を統べる新魔王グレート・サタン。
4人の魔王はそれぞれ、異なる特筆した力を有している。東の魔王は、闇の魔法能力が高く、魔王個人の戦闘能力は他の魔王を凌ぐと言われていた。現在の北の魔王グレート・サタンは実力・能力ともに未知数であるため例外とするが、それでも東の魔王は強敵と言える。闇の魔法に対策が出来ていなければではあるが・・・
個別に行動していたスペチアーレ、フォードにも、ムーン・ザ・リッパーの討伐完了の知らせはすぐに届いた。一時城内に集合したサナ、スペチアーレ、フォードはドラム村への出発の日時を決めるとそれぞれ自身の家へと向かった。
出発は明日の朝7時、アシハラ正門に集合することに決定した。サナは明日、宝鎧を受け取る手筈になっている、今日は早めに就寝するようだ。
夜空には未だ満月が輝き続けている。雲に隠れることもなく、ただ悠然と佇むその姿はとても美しかった。




