小鳥遊蓮
「さて、話をしよう。お前はなぜあのバカどもを襲った?」
なぜサナはこんなことを聞いたのだろう。これから死にゆく人間に問をする意味ははい、どんな理由があろうとも、国家反逆罪は死刑だ。
「暇だったからだよ~」
表情を変えずにリッパーは答えた。
「うそだな、お前の実力ならば傷を負うことなく皆殺しにできたはずだ。にも関らず、お前は負傷し、特定の兵だけを殺し逃亡した。本心を言え」
今のサナには、敵対心も殺意もない。ただリッパーの話を聞こうとしている。それを理解したのか、リッパーは真面目な表情に変え言葉を紡ぎだした。
「なら放してくれ、逃げないから」
砕けた口調ではなく、真剣な声に変った。サナは迷いなく手を放し、リッパーの手を引き、立たせた。
「まずは自己紹介からしよう。俺の名前は小鳥遊 蓮、日本からの転生者だ」
「名前は覚えておく、それで理由はなんだ?」
「俺の生まれは日本と言う平和な国だったが、育った国は違う。俺が12歳になったころ、大統領が変わり、紛争が絶えなくなった。目の前で人が死んでいくのは日常、地獄だった。家族は敵兵に殺され、友人も戦地で死んだ。俺も14歳になるころには戦地に駆り出され、敵兵を殺しまくった。やらなければやられるから。そんな地獄のなか、ふと気づいたんだ。俺たちはなぜ殺し合っているのかを。奪おうとも奪われようとも国民には恩恵などない。あるのは国のトップと富裕層だけだった。家族や友人、罪のない者たちは、そいつらのエゴで殺されたと気づいたとき、俺は決めたんだ。弱者の気持ちを考えず、私利私欲に走るバカども皆殺しにすると・・・」
「なるほど、おまえの強さの基盤はその紛争か。だが気になるな、それならなぜ蓮は国王を殺さなかった?」
「俺の流儀だよ、罪深き者の悪事を世間に示して殺す。あのバカの情報がまだ足りない、それを集めるまでは殺さない」
「わかった。ではなぜ兵士を皆殺しにしなかった?あれは無作為ではなく選んで殺しただろ?」
「なんとなくわかるんだよ、人の持つ悪の感情が。戦いの中でいつの間にか身に着けていた力だ」
「つまり、それを持つものだけを殺したのか。ならお前の特殊能力はなんだ?」
「不死身だよ。城内での戦闘も確認のため傷を負った」
「なるほど、不死身と言うことは首を撥ねられようとも死なないと言うことか?」
「まだ試したことは無いが、恐らくは大丈夫だ」
小鳥遊蓮、通称ムーン・ザ・リッパーの生い立ちと能力、目的はある程度理解することができた。彼は清すぎるが故に狂人となってしまったようだ。サナは、自身と似た生い立ちを持っている蓮に同情と、共感を得た。
「そうか、お前は俺と似ているな。だが、国王の命令を聞かなければ俺は勇者の立場を剥奪される。悪いが俺のために死んでくれ」
サナはそういうと、蓮の首を撥ね飛ばした。脳からの信号を受け取れなくなった体は、前のめりに倒れる。だが、頭には未だ意識があるようだ。サナから目線を離さず、じっと見つめていた。
「蓮、俺のために・・・・」
サナの言葉は、夜風によって聞き取れなかった。だが、その言葉を聞いた蓮は小さく微笑むとそのまま目を閉じた。離れた頭は完全に反応が無くなり、死んだように冷たくなっていた。




