邂逅
「フン~フン~フフン~~♪」
夜の街に流れる鼻歌。暗闇の中、極悪人が創り出す美しいメロディー。腐りきった世界に響くは、髪色と同じ、純白を思わせる清らかな音だった。ムーン・ザ・リッパーは、誰とも知らない人の家の屋根に座り、満月を眺め、歌を奏でていた。
サナは、街の中を歩いていた。向かう先はリッパーのいる場所。サナは、リッパーがいる場所など知っていない、ただ運命に誘われるまま歩いている。微かに、鼻歌が聞こえてきた。サナとリッパーの邂逅は、もうすぐそこだ。
「お前がムーン・ザ・リッパーか?」
サナは必然的に出会ったリッパーに、声を掛けた。特徴は一致する、まず間違いなくこいつが討伐対象だろう。
「君は誰かな?俺っちに用があるみたいだけど」
「俺はサナだ、バカの命令でお前の討伐にきた」
「ふーん、いいよ。付き合ってあげる」
リッパーは屋根からおり、サナの前に立った。夜深い時間ではないが、人々の往来は全くない。いま二人の邂逅を邪魔するものは存在しない。
先に攻撃を仕掛けたのはサナだ、妖刀を縦に振るった。全力ではないが速さは十分、常人では追えぬ速度だ。負傷した相手には到底避けきれないだろう。だがリッパーは難なく躱す。まるで怪我などしていないかのようだ。その後も幾度となく攻撃を繰り返すが、リッパ―は影の如く実態がないかのように躱し続ける。
「強いね~、それにまだ全力じゃないみたいだし~」
「お前こそ、能力なしで躱し続けるとは本当に人間か?」
「ありり?能力を使ってないのバレた?」
リッパーは、本来のポテンシャルのみで戦っていた。魔法は一切使用せず、己の肉体と経験だけで戦い続けていたのだ。
「でも、俺っちの能力は戦闘系じゃないから使っても意味ないんだよ~」
「末恐ろしい奴だ、これで強化ゼロとは。だが、俺はお前を殺さなければならない。ここからは全力行くぞ」
サナはギアを一段上げ攻撃を仕掛ける。先ほどの比ではない斬撃が、リッパー目掛けて繰り出される。リッパーは完全によけることが出来ず、右腕を切り落とされた。切り落とされた腕は、宙に舞い月と重なり、その後重力に従い落下した。
「切られちゃった~」
自身の右腕を失ったにもかかわらず、リッパーは他人事のように言う。
「これで終わりだ」
サナは右腕を失ったリッパーの背後に廻り、頭を鷲掴みにするとそのまま地面に頭を叩きつけた。
「痛いな~」
リッパーは、相も変わらず飄々としている。これから死ぬかもしれないというの、この態度をとる姿は、異常者としか考えられない。
サナは剣を逆手に持ち直すと、リッパーに向かって勢いよく突き刺した。討伐完了・・・ではなかった。サナは、剣をリッパーの目の前に突き刺しただけで、止めはさしていなかったのだ。
「さて、話をしよう。お前はなぜあのバカどもを襲った?」




