帰還命令
食料を確保し、回復薬や使い捨ての装備を持てるだけ調達した。サナたちは、この村でやることはもうないと判断し、夕食をとるため宿に来ていた。一日の滞在と言うこともあり、今日は3人で食を済ませるようだ。
そんな時、伝書鳩がサナたちのもとへと飛来した。伝書鳩には金の装飾が施されており、アシハラ国からの手紙であることが分かる。
「国から直々に手紙とは」
「なんと書いているのだね」
サナは伝書鳩が届けた手紙を読み上げた。
『アシハラ城内にて出現した高潔の使徒が、謀反をおこし城内の兵士を30余り殺害、国王カマロ・ピニオンギャに怪我を負わせ逃亡。壁内の安全を確保するため、直ちに帰還し、高潔の使徒の討伐を命ずる』
「だそうだ」
サナは気だるげに読み上げた。国王の命などどうでもよいが勇者としての立場は使える。ここで命令を放棄すれば、称号は剥奪されることは火を見るより明らかだ。
「スペチアーレ、テレポートは使えるか?」
「もちろん使えるわ、ポイントも確保しているからすぐにでもアシハラに戻れるわ」
テレポートは瞬間移動に近い魔法だ。ただどこにでも自由に飛ぶことが出来るわけではない。事前に陣を描くことでそこに飛ぶことが出来るのだ。
「なら旅は一時延期だ、アシハラに戻るぞ」
「わかったわ、ただこちらに陣を描くまで少し待って」
こちらにも陣を描くことで、アシハラからこちらに一瞬で戻ることが可能になる。勿論スペチアーレは、サド村にも陣を用意していたが、サド村からドラム村まで数日かかってしまう。時間は少しかかってしまうが、こちらに陣を描いたほうが良いのは明らかだ。
十数分たった頃、陣は完成していた。
「できたわ、これでアシハラに戻っても問題ない」
「よし、すぐ飛んでくれ」
3人の周りを囲むように、地面が光りだした。テレポートが始まったようだ。数秒ほど時間が経過すると、3人は姿を消した。テレポートに成功したようだ。気づくと3人は、小さな部屋の中にいた。
「ここは、私の部屋よ。城内へのテレポートは禁止されているからここから向かうしかないわ」
城内へのテレポートは法律上禁止されている。それは国王の安全上必要なことだ。城内にテレポートできるようになれば、いつでも国王の命を奪うことが可能となってしまう。例え勇者であろうともこの法律は絶対なのである。
「いや、それは仕方のないことだろう」
フォードはスペチアーレに優しく話しかけた。
「それじゃあ、城に向かうぞ」
サナは、いつもの淡々とした口調で移動を促した。
幸いスペチアーレの家から城まで、距離はそれほど離れていない。数十分で城の前までつくことができた。
門兵に命令で帰還したことを告げ、入城の許可を申請した。話は通っていたらしく、すぐに入城の許可が下りた。兵士の案内の元、国王がまつ部屋の前についた。案内役の兵士が中に入り国王に報告をしているようだ、扉越しに部屋から声が漏れてくる。やがて声は止み、中から先ほどの兵士が出てきた、入室の許可が出たようだ。
「勇者さま、国王が入室を許可しました。中へお入りください」
サナたちは、国王の前で片膝をつき、言葉を待った。
「よくぞ戻ってきた。早速で悪いが、高潔の使徒ムーン・ザ・リッパーの討伐を命ずる」
「「「承知いたしました」」」
天が遣わした者との闘い、強敵であることは確かだ。緊張の糸が部屋の中には張り巡らされていた。




