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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
23/102

母親

「ドラム村に送り届けたら、一日だけ停泊するぞ。今日の内に必要な物資を調達しておけ」


サナは、明日にはドラム村を出発するつもりだ。実際ドラム村は、サド村に比べると発展していない。装備などは調達する必要がないのだろう。


「相変わらず上から目線ね」

「村での宿泊も食事もすべて無料なんだ。旅の疲れを癒すため数日停泊しても良いのではないか?」

「俺たちは観光が目的で旅をしている訳じゃないんだ、休憩は一日あれば十分だろ」


ドラム村までは残り数時間といったところだ。捕まっていた子供を送り届け、村の状況を知れば長居する理由はなどないのだ。


太陽は人間の皮膚をじわじわと焼いている、その熱は、サナたちの体を常に熱くしている。恒温動物である人間は、内に溜まった熱を汗という形で排出していくが、晴天の太陽の光は、どれだけ汗を滴らせようとも、永遠に体の熱を冷ますことはできなかった。サナたちは大人であること、鍛えていることもあり、炎天下の中でも苦労なく歩みを進めているが、少年は違う。子ども特有の体温の高さと、力のない体では、長時間の移動は苦しいようだ。


「ガキ、水分をこまめにとっておけ」


自身の水筒を少年に差し出す。無垢な子どもにはサナも優しさを隠すことなく示すことが出来るようだ。今のサナは非の打ち所がない勇者そのものだった。



数刻後


「ドラム村についたな、とりあえずお前を家まで送り届ける。案内しろ」

「うん、こっちだよ」


せっかく村まで送り届けたというのに、村の中で何かあってしまっては意味がない。安全が保障された家まで送り届けることで、勇者としての仕事は終わりを迎える。


少年は一つの家の前でピタリと足を止めた。小さなレンガ造りの建物、恐らくこの建物が少年の家なのだろう。家の中からは、かすかに女性の咽び泣く声が聞こえてくる。


コンコンコン、小気味良い音が木製のドアからなる。家の中から聞こえた泣き声は止み、ドアがゆっくりと開いた。中から顔を出したのは、三十代の女性であった。目は腫れ、拭き取り切れなかった雫が顎を伝っていた。


「なんでしょうか?」

「お母さん!」

「っ!ギム!どこ行ってたの!」


数日前から行方の知れなかった息子が目の前にいる。安心と嬉しさで感情はごちゃまぜになっている。


「森の中でサイレントスパイダーに捕まっているところを保護しました。確かに送り届けたので我々はもう行きます」


サナはギムを親の元へ送り届けたことで、役目を終えたようだ。物資調達のため、商店街を探しにいくつもりのようだ。


「まってください!何かお礼を!」

「勇者として当たり前のことをしただけです、気にしないでください」


サナは一言だけ言葉を残すと、女性の話を聞かずに歩き出した。スペチアーレとフォードもそれに続いて歩き出す。


「本当にありがとうございました」

「ありがとーーお兄さん!」


3人の背後から感謝の言葉が永遠と聞こえてくる。ギムと母親は、サナたちの姿が目視できなくなるまで、感謝の言葉を言い続けていた。


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