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臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
22/102

会話

 サイレントスパイダー討伐に加えて子どもの救出。歴代で最も嫌われている勇者が、勇者としての義務を最も果たしている。なんともおかしな話である。巡る世界の流れが、創り出した不自然さは、見るに堪えない。時間の経過のみでは成長はないことを今の世界が体現している。


「今日はここで野宿だ。ガキ、お前は俺の寝袋を使え」


旅に出る時、荷物は最小にするのが基本である。勿論ここには寝袋は3つしかない、サナは

自身の寝袋を少年に貸すようだ。


「お兄さんはどこで寝るの?」

「俺は地面で寝れる。それにお前はさっきまで寝苦しそうなベットで寝てたんだ。遠慮するな」

「ありがとう、お兄さん」


結論は出た、皆が温かい寝袋の中で眠るなか、サナは、地面に胡坐で座り、刀を支えとして眠りについた。



翌日


スペチアーレがまだ暗い中、目を覚ました。寝起きのため、未だ暗闇に目が慣れておらず、視界には闇しか映っていない。起床時間は朝日が昇る少し前の予定だ、もう一度就寝しようとしたスペチアーレだったが、空気の流れがおかしいことに気づき、すぐさま立ち上がった。


「だれ!」

「俺だよ」


動いていたのはサナだったようだ。スペチアーレの呼びかけに返事をした。


「なんでこんな時間に起きてるのよ」

「たまたまだよ。目が醒めてから眠れなくてな」


嘘ではないのだろう。サナは、何の苦もなく、就寝場所に戻ってきた。


「どこに行っていたの?」

「トイレだよ」

「嘘ね、さっき空気の流れがおかしかった。あなた魔法を使ったでしょ」

「余計なことを詮索するな」


話す気はないようだ。だが、サナは魔法を使用したことを否定していなかった。サナの謎の行動の理由は分からない。


「後30分ほどで起床時間だ。寝るなら早く寝た方がいいぞ」

「いえ、このまま起きておくわ」


先ほどのやり取りで、スペチアーレの眠気は吹き飛んでいた。このまま起床時間まで起き続けることにしたようだ。


「あなた、なぜ勇者を嫌うの?それにところどころ不可解な行動もあるわ」

「詮索するなといったはずだが」

「いいじゃない、それぐらい教えてくれても」

「自分の物差しで測るな、お前にとってはそれぐらいでも、俺にとっては譲れないことだ」

「それはそうね、悪かったわ」

「・・・ただ、何事も一つの視点からでは分からないことがあるってことだ」


サナは、スペチアーレに親近感を抱いていた。スペチアーレは昔の自分に似ていると。過去の自分は、希望を信じ崇拝してきた、今のスペチアーレのように。だがその希望が虚構の物だったと知った時、サナは変わってしまった。


スペチアーレに親近感を抱いたが故に、サナは、己の考えの一部を漏らしてしまった。だが、サナは自分だけが正しいと思っている訳ではない、きっかけを与えることで、スペチアーレ自身に選択の余地を与えようとしたのだ。


「なによ、それ・・・」

「そこからは自分で考えろ。話は終わりだ」


スペチアーレのサナに対する考えは、少し変化していた。彼は、態度や言動は酷いが、行動だけは立派だった。そのちぐはぐな姿が、サナに対する考えを複雑にしている。行動は勇者、それ以外は悪者。スペチアーレには、彼が何を目指しているのか分からない。


「わかった、でもあなたのこと、時期が来たら教えてほしいわ」

「そんな日は来ない」


無垢なる女性と闇を抱える男。二人の会話は、暗闇の穴に吸い込まれ、他の人間に聞こえる前にすべて無になった。


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