表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臧否の禍時   作者: まるサンカク四角
21/102

高潔の使徒

アシハラ国王の城内に、一人の男が突如として現れた。高潔の使徒と呼ばれる存在、天が遣わしたメシアとして、数百年前から時折現れる存在だ。遣わされた人間は、皆例外なく特筆した能力を有しており、強力な戦力になる。またそれだけではなく、アシハラの世界にはない知識を持つ者も多く、アシハラの農業、建築、産業に至るまで、さまざまな分野で貢献してきた。そのような存在が、今出現したのだ。


「名を聞こう、私は都市アシハラの国王カマロ・ピニオンギャである」

「俺っちはムーン・ザ・リッパーだよん」

「貴様!国王に対し無礼であるぞ!」

「知るかよ、老人の話に付き合ってやってるだけでも感謝しろ」


リッパ―は、名を尋ねられた時のような陽気なものから、全てを切り裂く殺人鬼のように変化した。彼の雰囲気の変わりようは、寒気すら覚える。太陽の光のような温かさから、常闇の風のような冷たさ、この緩急は人々の思考を停止させるほどのインパクトがあった。


「兵士の物が出過ぎた真似をしてすまない。私は君のこれからについて話がしたい。私の直属の部下となり、壁内の中で豊かに人生を送るか、私を拒み、壁外で魔物との戦いに身を投じるかだ。ただ私の部下になることを拒んだ場合は、すぐに、このアシハラから出て行ってもらう」

「へぇ、おっさんの下に付かなきゃ、面倒くさいことになるってことか」

「簡素に言えば、その通りだ。だが、私の部下となるなら、金銭と安全は保障しよう」

「なるほどなるほど。おっけ~、決めた!お前らまとめて皆殺しにしよ~」



ところ変わって、小規模な森が広がる大地。勇者一行が現在進んでいる場所だ。サナたちは、森に巣くうサイレントスパイダーの討伐に向かっている最中のようだ。


「行きたくないわね、私蜘蛛って苦手なのよ」

「私もできれば闘いたくないな」


サイレントスパイダーは下位悪魔ではあるが、隠密性に優れており、頻繁に人間を攫い捕食している。隠密を得意としていることもあり、森の中での討伐は困難を極める。だが所詮は雑魚悪魔、勇者一行の前では、手も足も出ずに倒されてしまうだろう。


スペチアーレは常に索敵魔法を使い周辺を警戒している。スペースグラスプとは違い、魔力を多く使わないため常時発動が可能となっているのだ。この森に入って、1時間ほど過ぎているが、遭遇するのは、ゴブリンやオークと言った下級悪魔だけだ。その分経験値を多く稼ぐことが出来ているため、皆レベルが1上がっていた。


「何かが木の上にいるわ!」


スペチアーレの索敵に何かが引っかかったようだ、すぐさま敵の情報を二人に伝達する。3人はほぼ同時に、木の上部を見た。そこには巨大な蜘蛛が1匹と巣に捕らわれた少年がいた。子どもにはまだ息があるようで、小さな呼吸音が聞こえる。ただその音は弱弱しく、秋先の羽虫のようだった。


「俺が、糸を断ち切って子供を助ける。ついでにサイレントスパイダーを地面に叩き落すから、お前らで倒せ」

「わかったわ」

「いいだろう」


旅の中で、最低限のチームワークが確立してきている。互いに嫌悪しながらも、戦いという場面においては連携がとれるようになったのは、一つの成長だろう。


炎迅(えんじん)!」


サナは妖刀の炎を使い、蜘蛛の糸を断ち切った。粘着性のある糸を無力化するには十分の火力である。サナは子どもを片手で抱えながらも、サイレントスパイダーを蹴り飛ばした。


垂直に地面に向かって落下していく巨大蜘蛛に、スペチアーレは炎熱魔法であるファイヤーボールをぶつけた。火達磨となったサイレントスパイダ―は、火を消すために、のたうち回っていた。この機を逃す必要はない。既に虫の息となったサイレントスパイダーに、フォードが止めの一撃を与えた。


サナは、サイレントスパイダーが絶命したことを確認すると、木の上から降り地面に着地した。


「このガキ、外傷はほぼなかった。おそらく飢餓状態で弱っているだけだ」


サナが携帯食料を与えると、少年は多少の元気を取り戻した。だが悪魔に対する恐怖から、言葉をしゃべれずにいた。


「安心しろ、俺たちがお前を送り届ける。どこに住んでいるのか教えてくれ」


この森は、サド村とドラム村の間にある。サイレントスパイダーの行動範囲を考えると、この少年の住む村は二つの内のどちらかだろう。


「ぼ、僕は、ドラム村に住んでます」


弱々しいが、はっきりとした口調で答えた。


「そうか、ドラム村までは後1日ほどでつく。それまで俺たちがお前を守ってやるよ」


少年は安心したのだろう、初めて笑顔を浮かべた。それはとても純粋で、綺麗な顔だった。そして、サナには今はもう作ることが出来ない笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ