オークの根城2
洞窟の中には、一切の光が無い。オークに炎を扱う知識がないというのもあるが、オークは視界が悪くとも大体のことは把握できる。オークの嗅覚は、人間の100万倍以上あり、臭いだけでも、ある程度動くことが出来るためだ。
「灯りが欲しいわね」
「そうだね、オーク相手に暗闇では不利だ」
スペチアーレとフォードは、灯りをどうするか考えている。勿論魔法で光を創り出すことは出来るが、情報が足りない状態では魔力を極力抑えたいのだ。洞窟の奥に、想定以上の魔獣がいた場合ほんの少しの油断も命取りだ。
「灯りは別にどうでもいい、それよりも中にいる生物の情報を探れるか?」
「索敵系の魔法を使えば可能だけれど、洞窟内全部の索敵となると魔力が大幅に削られるわ」
「ならやってくれ、中の状況が知れればそれでいい」
「だから、索敵したら魔力が・・・」
「いいからやれ!」
スペチアーレは、索敵に魔力を多く使うことを嫌がっていた。中にはモンスターしかいない、そう思い込んでいるのだ。ここは壁内と違い、人間が魔獣に襲われ拐かされることも少なくないにも関わらず。それを知らないスペチアーレは、命令を拒もうとしたが、サナの修羅の如き瞳と魔王のような禍々しいオーラが、それをさせなかった。
「わかったわよ・・・スペースグラスプ!」
スペチアーレは、上位索敵魔法である空間把握魔法を使った。通常の索敵魔法は範囲が狭い上に敵の有無しか調べることが出来ない。だが空間把握魔法である「スペースグラスプ」は、敵の姿形・範囲内の地形までも調査することが出来る。
役1分と言ったところでスペチアーレは、魔法を解除した。どうやら洞窟内の調査が終わったようだ。魔法による疲れから、額から汗を滴らせながら、洞窟内の情報をサナとフォードに向かって説明して始めた。
「中にはオークが20体程度、確証はないけれど一体だけ少し姿が異なるオーク、恐らくオークキングが1体いるわ。他には生命反応は無かったわ。ただ、人間の骨らしきものを確認したわ・・・」
スペチアーレは、悔しそうに報告を終えた。自分たちが、数日早く来ていれば救えていたかもしれない命。モンスターによる人々の理不尽な死、壁内にいては、リアルで感じることが出来ない当然の事実に悔しんでいるのだ。そして気づいた。サナが「オークの情報ではなく、生物の情報」と言った理由が、サナは中に村人がいる可能性を考えて、洞窟内を探るように命令したのだと。
「そうか、助かった。ここからは俺の仕事だ、少し下がってろ」
サナもまた、悔しそうな、悲しそうな表情をしていた。だが、この憤りを怒りに変え、洞窟内のオークたちに血の花を咲かせることで、殺された人々への献花とするようだ。鬼王の刀を鞘から引き抜き、構えを取る。鬼王の刀は、鬼の特性である炎を宿している。サナは自身の魔力を刀に注ぎ込み炎の威力を上げていく。刀を上段に持っていき、高速で下段まで振り下ろした。刀に蓄積していた業火は、刃から離れ、洞窟内を隅から隅まで燃やし尽くしていった。
「今ので、キングオーク以外は殺せたと思う。オークキングは外に出てくるだろうから、戦闘準備を整えておけよ」
敵しかいないと分かっている場所に乗り込む必要はない。逃げ道など一つとしてない洞窟内に極大炎を撃ち込んだのだ、炎に耐え切れなければ死ぬ以外に道はない。オークキングは今の攻撃で死んではいないだろうが、ダメージは十分に受けたはずだ。そうなれば2撃目・3撃目が来る可能性があるなか、洞窟内に居続ける選択肢など存在しない。サナの予想通り、キングオークが中から突進してきた。今のオークキングは、見るからに豚だ。オークが持つ形状変化能力で、移動に特化した姿になっているのだろう。
「貴様か!我に攻撃を仕掛けた愚か者は!」
オークキングは、肉体をヒト型に変化させながら、サナに確信と言う名の質問を投げかけた。様式美というものだろう、オークキングは確信しているにも関わらず、質問をしたのだ。
「俺じゃありません、この二人です」
サナは平然と嘘を吐き、攻撃の犯人をスペチアーレとフォードに押し付けた。空気が一気に冷え込んだように感じる。洞窟内に未だ燻る残り火が、未だ熱を持ち、空気を温め続けているにもかかわらず・・・・




