旅、再始動
「何なのよ!あいつら!なんで私たちが文句言われないといけないのよ!」
「あぁ、その通りだね・・・」
スペチアーレは勇者として歓迎され、喜ばれると思っていたのに、今現在村人からは恨み節を言われる。自身が想像していた反応とは大きく違い不満の声を漏らしていた。フォードもスペチアーレに同意していたが、内心では当然のことと理解していた。
壁外の人々は、勇者に協力することを義務付けられている。もし義務を放棄すれば、アシハラの兵士達に総攻撃を受けてしまうのだ。今まで勇者一行に対しても直接被害を出されることがなかったため、不満を漏らすことはなかったが、今回は村に損害がでたため我慢ならなかったようだ。いままで蓄積していた不満はマグマのように熱く、噴火のように爆発したのだ。
「サナ君が村を破壊したのが原因だろう」
フォードは自身も村人の怒りの要因になっていることを知りながら、全てをサナに押し付けた。壁外のことを全く知らないスペチアーレを騙すことは容易い、スペチアーレは完全にサナのせいであることを疑わなかった。
「そうね、彼が全部悪いんだわ」
二人はサナを問い詰めるため、村人にサナの居場所を聞いた。3,4人に話を聞いたところ、サナが泊まっている宿を知ることができた。二人は急いでサナの泊まる宿に向かった。
「サナ君、いるかな?」
サナが宿泊している部屋の前でフォードは、声をかけた。部屋の中からサナの返事が聞こえる。その数秒後、サナは扉をあけ部屋の外に出てきた。
「なんだ?」
「なんだじゃないでしょ!あんたのせいで私達まで責められてるのよ」
「うっせぇよ、勇者なんてこんなもんだろ」
「そんなわけないでしょ!勇者は人々のために動かないといけないの!」
「まぁ本来はそうだろうな、っと、それより俺たちは今日でこの村をでるぞ。準備しとけ」
サナはまたもや足早に話を切り上げると、自分の部屋に戻っていった。
「なんなよ、あいつ!」
スペチアーレは、部屋の前で、大声で悪態をつく。彼女は、根は良い子なのだ。ただ世間を知らず、マスタングに陶酔してしまっていることが、彼女の問題なのだ。
「全くだね、だが、今は我々も旅の準備をしよう。この村にはもう居れない」
二人は、サナへの悪口をほどほどに自分たちの宿へと向かった。
準備を整えたスペチアーレとフォードは、村の正門に向かった。サナは先に到着しており、門の壁にもたれ掛かっていた。
時刻は正午過ぎ、日が西に傾き始めている時間。本来ならば旅立ちに全く適していない時間帯ではあるが、騒動の後なのでしょうがない。合流した3人は一言も言葉を交わすこともなく、次の村に向かって歩き出した。




