勝利の報酬
炎の檻は消え去り、枯れたカボチャと悪人面の勇者の姿が見えてきた。東の魔王の側近、歴代の勇者達が見る事すら出来なかった大物、それを旅にでて数日の弱冠勇者が討伐したのだ。偉業である。
「サナ君が倒したのか?東の災害を・・・」
「あぁ、だからどうした?」
「どんなインチキを使った?君のような人間が勝てるわけがない」
フォードは、サナとジャックの闘いが炎で隠れて見えなかったことをいいことに、サナに対して身勝手な言葉を投げつける。
「そうよ、マスタング様でも出来なかったことをあんた如きが出来るわけないわ」
「なら、勝手にそう思ってろ」
サナはこれ以上の口論は無意味と感じた。話を切り上げ、サド村に戻っていく。だが、村に戻って受けたのは、感謝や労いではなく、罵倒の数々であった。
「村を破壊しやがって!早く出ていけ!」
「やっぱり勇者なんて皆、悪よ!」
サド村に危機が迫っていたことなど知る由もない村人たちは、正門付近でのサナの一撃によって起こった地面の破壊、衝撃波による建造物の崩壊に憤りを感じていたのだ。
サナは何も言わない。事実ジャックがサド村に来た理由はサナにある。ジャックの部下であるヴァンパイアを討伐したことで、ジャックが来たのだ、これは紛れもない事実だ。だがもし、サナに非が無かったとしても、サナは自分の力のために弁解しなかっただろうが・・・
「ああ、さっさと出ていくから騒ぐな」
サナはわざと村人を煽り、ヘイトを大きくした。これでサナはまた強くなる。計算外ではあったが、自身の能力を向上出来たことに、満足感とほんの少しの痛みを感じていた。サナは、自身に痛みという感情が残っていたことに、苛立ちを感じながら自身が泊まっていた宿に向かった。
「お兄さーん!」
先ほどの少女に声を掛けられ、動きをとめた。彼女の声が、サナの体に纏わりつき、動きを完全に停止させたのだ。まるで催眠術を掛けられたように、自身の意志を無視して体が身勝手に停止し続けている。今サナの体に許されているのは、呼吸と背後にいる少女を見るために首を動かす事だけだった。
「さっきのを見てなかったのか?俺は悪い人なんだよ」
「お兄さん、なんでそんなに悪く見せようとするの?中二病なの?」
「違うよ、俺は本当に悪い人なんだよ」
「お兄さん、そういうことは目を見て言わなくちゃ直ぐにバレるよ!私はお兄さんを悪い人なんて絶対思わないよ!」
サナはこの答えを待っていたのかもしれない。だからこそ、サナの体は身勝手に動いたのかもしれない。思考は騙せても心は騙せない。嫌われることに感情を動かすことの無かったサナにとって、少女との出会いは自身の心の内を垣間見るきっかけとなった。少女の目を見ることが出来なかったのも、自身の心を否定したくてとった行動なのだろう。
「ありがとな、嬢ちゃん、名前教えてくれるか?」
「エリーだよ!お兄さんの名前は?」
「サナ・ターゲットだ」
「サナお兄ちゃんか、いい名前だね!」
「ははは!初めて言われたよ、俺たちはすぐにこの村を出なくちゃいけないからじゃあな、エリー」
「うん!またねー!サナお兄ちゃん!」
サナは自身の心の内を知ったが、今更自分のスタンスを変えるつもりはない。だからこそサナは、「じゃあな」と言ったのだ。もう二度と会うつもりはないという意味を込めて。しかしエリーは、その意をいとも容易く打ち壊した。「またね」、また会うことを信じている言葉だ。
「またな・・・」
サナの口は、またもや身勝手に言葉を発した。サナはエリーに特別な感情を持っているようだ。恋愛でも、親愛でもない、嫌われ続けたことから起きる形容しがたい感情だった。




