核王
協定はつつがなく終わりを迎えた。これほどの好条件に不満などあろうはずもない、一部上層部の者には有利過ぎる条約に対して疑いの目を向けるものは居たが、所詮は勘ぐり、確固たる反対理由など見つかるはずもなく流れていった。
「それでは明日正午、我々は隣国カイエンに対して宣戦布告を行う。我が国の命運は貴殿らにかかっておる。精進せよ」
ナイル国王の激励を最後に、協定は実現されることとなった。
【協定締結後】
「明日、開戦と同時に最大火力の魔法を叩き込む。俺からの手向けだ」
サナは魔界に入る前にスペチアーレに協力しようとしているようだ。現時点のサナの実力は魔王級、相手としては災害としか言いようがない。
「大丈夫なの?魔界での戦闘が控えているのでしょう。それにそんな魔法使えば無差別に人が……」
スペチアーレは元来優しい子だ。人々の幸せを願い勇者パーティに加入し、人間を守るために力を奮ってきた。その彼女が、人々の心配よりもサナの心配を優先している。愛とはなんとも人を変えてしまうものだと痛感できる一言であった。
「心配するな…」
サナの言葉は全てを包括している。徹底的な平和を望むサナにとって、無差別攻撃など選択肢として存在しない。そして平和への道程に自身の存在が不可欠なことも熟知している。サナの行動に疑問を持つことすら不必要なことなのかもしれない。
「サナ〜、君が魔法を叩き込んだら核王たちに目をつけられるんじゃない?」
核王とは文字通り、南の大陸で中核を担っている王の呼び名である。破魔のマギナ大王、研磨のルギナ皇帝、天武のメギナ帝王、狂魂のラギナ君子、四人の王は日々成り変わる大陸の勢力図の中で、太古から存在する大国の主だ。彼らに早々に狙われることは避けるべきなのだ。
「むしろ核王が警戒する一撃を撃つべきなんだ。すぐに手を出さないようにな」
蓮は納得した表情をしている。縄張りに侵入してきた羽虫を叩くのと、熊を叩くのとでは勝手が違う。核王に熊と認識させるためのサナの魔法なのだ。
「僕らは核王が此方の様子を伺っている間に、彼らの予想を超える戦力を備えるんだね〜」
スペチアーレにも伝わるよう、蓮がそれとなく説明を足す。口下手なサナとお喋りな蓮は意外にも相性が良いコンビだ。
「まぁ、そう言うことだ」
明日からは完全に別行動となる。暫しの別れを前にして、三人は最後の晩餐を和気藹々と過ごしていった。




