ジャック・オー・ランタン
人々を優しく見守る太陽がサンサンと照りつけ、風に靡く柔らかな草原が生命を強く感じさせる。しかし、その大地の上に立つ二人は、死と絶望しか感じさせない。
「テメェ、なんで俺のこと知ったんだ?人間に面を見せる時は、皆殺してっから、俺の事知ってる奴なんていねぇ筈なんなだがな」
「さあな、だが、俺はお前を知ってる」
「気味悪い人間だな…」
ほんの少しの会話を終了させ、二人は戦闘態勢にはいる。サナは、先日手に入れた剣を抜き、切っ先をジャックに向けた。それに対し、ジャックは赤く光る火の玉を召喚した。
「勇者の持つような剣じゃねえな」
「悪魔が勇者を語るか、面白い話だな」
「確かに、そうだな。実際、俺も勇者のことは知識としてしかしらねぇからな」
ジャックは最上位悪魔であり、東の魔王の側近でもある。本来、このような村に姿を現すことなどまずない。そのため、勇者と対峙した事も勿論ないのだ。
「テメェ、名前はなんてんだ?」
「サナ…サナ・ターゲットだ」
「サナか、、、テメェが俺の部下のヴァンパイアを殺したのか?」
「お前の部下かどうかは知らないが、数日前に一人倒した」
「そうか、やっぱりテメェだったか。しょうがねぇ、魔王様の命令だし、俺が直々にテメェを殺してやるよ」
ジャックは、部下であるヴァンパイアの死を知り、自ら調査に向ったのだ。件のヴァンパイアは、ヴァンパイアの中でも飛び抜けた魔力を有していた。そのヴァンパイアが死んだとなれば、上位悪魔では立ち打ちできない。
「それにしても不思議だな。どうやってお前はヴァンパイアの死を知った。あの時、周りを確認したが人っ子一人居なかった」
「俺たち悪魔は、眷属にした奴の証が腕に刻まれてよー、それが消えるのは、そいつが死んだ時だけなんだよぉ」
「なるほど、それでわかったのか」
「まぁそんなことはどうでもいいだろぉ、さっさと殺り合おうぜ!」
ジャックは、宙に浮かぶ無数の火の玉をサナに向かって投げ飛ばした。攻撃はそれ程速くはないが、手数が多く、避けるのは困難である。その為、サナは避けるのではなく受け流す事にした。
「防御だけで精一杯かぁ!なぁ、サナ!」
「お前こそ、災害とか言われてるが、大した攻撃をしてこないな」
戦闘は続けながらも、憎まれ口を叩き合う二人。どちらも未だ余力を残しているようだ。ほんの少しの攻防の果てに、サナは攻めに転じた。一瞬でジャックの前に現れたサナは、剣を振り下ろし、ジャックの左腕を切り落とした。
「ちっ!人間のくせに強ぇな」
ジャックは悪態をつきながら、後退した。切り落とされた腕からは血が出ていない、もう、止血が済んだのだろうか。
「俺様が切られるなんて数百年ぶりだ、、、だがよぉ、こんなもの傷でもなんでもねぇんだよ!」
ジャックの左腕の切口から植物の根のようなものが生えてきた。その根は、形をどんどんと変え、元の腕のようになってしまった。
「俺様に、傷をつけられるのは魔王様しかいねぇんだよ!」




