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四大元素を司る神の一人の加護を受ける神子に転生した私は愛する者達の死亡エンドを回避したい  作者: 翠宝玉
赤ん坊からやり直しです。ゲームの記憶を覚え続けることを筆頭にできないことは多いけど、今の私でもできることを頑張ります!
4/30

【第三話】紫蘭ことお母さん視点

評価してくださり、本当にありがとうございます!

展開はゆっくりですが、少しずつ前に進めていきますのでこれからもお立ち寄りくださると嬉しいです。


すやすやと穏やかな寝息を立てる明藍の眦に残る涙を指で拭い、頭を撫でる。すると遠慮がちに扉をノックする音が響き、私は小さく微笑みながら「どうぞ」と入室を促す声をかけた。


扉を開け入ってきたのは、風野家の当主であり私の旦那様でもある風野丈達様。

私の表情を見て丈達様は足音を立てないように気をつけながらゆっくりと私の傍に来て、腕の中で眠る明藍を見て安堵の息を吐いた。


「明藍は眠ったのだな」


「はい。漸く、落ち着いたみたいです」


「そうか…。すまなかったな。異変には気づいたのだが、私が行くよりも君に任せた方がいいと思って」


私が腰掛けているソファの隣に腰を下ろし、明藍の頬を撫でる指先は壊れ物に触れるみたいに優しいのに瞳はどこか申し訳なさそうに揺れている。


丈達様を深く知らない方々はいい加減でちゃらんぽらんな上に楽天的な印象しかないでしょうが、本質は違います。


物事を見通す確かな目を持っていて人の心を見通してしまう故になかなか本心を明かせない。身内以外と深く接することがなかったために気持ちはわかってもかける言葉を見つけられない、不器用すぎるほど不器用な方。明藍の考えがこの方にわからないはずはない。


だから今も明藍の気持ちがわかっているのに何もできなかったと内心では悩んでいるはず。本当にしょうがない人ですね。


「あなたのお友達のおかげで明藍が悩み、苦しんでいることがわかりました。だから、何もできなかったと悔やまれる必要はないのです。あなたが私達を想い、心配してくださったことは十分、わかっています」


「紫蘭…」


四大名家本家の者達は分家とは違い、家の名を冠する力を司る精霊の力を借りることができ、我が風野家は風を司る精霊の力を借りられます。しかし風の精霊はとても気紛れで自由奔放な性格なので力を借りたい時に呼び出しても応じてくれるかどうかは精霊の気分次第だそうです。

しかしあの時――明藍がぐずり始めた――に確かに聞こえてきたのです。


《怖い、苦しいって》


《悲しいとも言っているよ》


《悩んでいるみたいだね》


精霊達の声は直接頭の中に流し込むように聞こえてきますが、風野家の血を引いていない私には精霊達の声は聞こえるはずがありません。それなのに聞こえたということは丈達様がご自身の負担を省みずに力を使って精霊達の声を私に聞こえるようにしてくださったということ。

丈達様はまだ何か言いたそうに一度二度唇を動かされましたが、やがて眉を下げながら困ったように小さく笑みを零したのです。


「本当に、君には敵わないな」


「私はあなたの心を守りたいだけですから」


「本当に、君は…」


呟きに甘い色が混じり、優しく慈しむように何度か私の頬を大きな手が撫でる。ゆっくりと丈達様の端正な顔が近づいてくる。私も目を閉じ、訪れる温もりを受け止めようとしていると、腕の中で眠っていた明藍が小さな声を上げ、身を捩ったので丈達様に委ねようとしていた体を離し、明藍に視線を向ける。


何か寝言を言うようにふにゃふにゃと口を動かす明藍に愛おしさがこみ上げてきて、柔らかい頬に口づけを落とし、丈達様と顔を見合わせて互いに小さく微笑む。


幾分か柔らかくなった明藍の表情に無意識に安堵の息が漏れ出ましたが、精霊達の声を思い出すと手放しに喜べないところも。


「この子は何か大きな宿命を背負って生まれてきたのではと考えてしまいます」


「…そうだな。だが、心配はいらん。必ず、守ってみせるさ」


「はい、信じております」


抱き寄せてくださる腕は優しくもあり、とても逞しい。揺るぎない信頼や与えてくださる安心感に包まれながら、この人を信じてついていけば大丈夫だと改めて実感するのでした。


小さな寝息を立てる明藍を丈達様と見守って暫く。聞こえてきた控えめなノックの音に返事を返すと丈成が扉の外から顔を覗かせた。


「すみません、父上、母上。少しいいですか?」


「もちろんよ」


「あの…これを明藍に」


両手を後ろに回して“何か”を隠すようにしながら丈成は私達の側まで歩み寄る。どこか迷うように視線を彷徨わせた後、覚悟を決めたようにぎゅっと両目を瞑り、勢いよく両手を前に出して“何か”を差し出してくれた。それは色とりどりの可愛らしい花々を藍色のリボンで束ねた――花束でした。


「わぁ、綺麗なお花。それにとてもいい香りだわ。どうしたの?」


「庭師の晃に頼んで摘み取らせてもらったのです。少しでも明藍を元気づけられたらと思いまして…」


「丈成…」


丈成の両手が土で汚れていることから明藍のために自分で摘み取ったことがわかり、その優しさ、気遣いにとても誇らしい気持ちになった。恥ずかしそうにほんのりと頬を朱に染めながら顔を俯かせる丈成の頭を労いと感謝を込めて撫でる。


「丈成、本当にありがとう。あなたは自慢の息子だわ」


「母上…」


「そうだな。いい男になってきた。よし、なら丈成には俺からご褒美をやろう。ほーら、たかいたかいだー」


「父上、俺はもうそこまで幼子では…わー!いいです、もういいですよ!」


「遠慮するな。はーはっはっは!」


「駄目だ…話を聞いてくれない…」


眠っている明藍に配慮して声を潜ませながら丈成をたかいたかいする丈達様はこれ以上ないというくらい満面の笑みを浮かべられている。


よほど丈成の行動が嬉しかったのですね。


困ったように眉を下げていた丈成が丈達様の表情を見て少しずつ笑顔になり、今は素直に丈達様の気持ちを受け止めてくれています。本当に、優しくて賢い子です。


丈達様が自分の感情を素直に表に出されている姿に私も嬉しくなって自然と笑みが浮かんできます。


温かく愛おしい空気が室内を満たし、その空気を感じ取ったように腕の中で眠る明藍の表情もとても穏やかで幸せそうなものに変わっていく。

大切で愛おしい家族が幸せそうに過ごしている。この時間を共に過ごせることに心から感謝し、私は皆を見守るのでした。


読了ありがとうございました。

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