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四大元素を司る神の一人の加護を受ける神子に転生した私は愛する者達の死亡エンドを回避したい  作者: 翠宝玉
未来のために努力を重ねるけど早速問題発生!?思い描く未来。私自身の夢。自分自身の答えを探していきます。
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【第二十八話】 シルフ視点

シルフが明藍に向ける気持ちの変遷。

「シルフ。風野家に生まれる神子ちゃんだけど、少し変わった魂を持っているの」


「変わった、ですか?」


「そう。ここではない、違う世界からやってきた女の子だけど彼女の世界には私達の世界を題材にした物語でする遊びが流通しているのですって」


「…つまり、転生者で彼女にはこの世界の知識があると?」


「ええ。守護精霊に憑けばあなたも彼女の記憶を覗き観られるからわかると思うから詳しくは言わないけど、でもすごく興味深い子よ。お話もできるみたいだから、落ち着いた頃に会いに行ってあげてね」


転生者。数百年に一度の頻度で異界から流れ着く魂がそう呼ばれている。でもこれまで流れ着いた転生者の中にこの世界を事前に知る者は一人もいなかった。色々いるんだね、転生者にも。最初に抱いた感情はそれだけで、アイオロス様が“興味深い”と表現されても僕が抱く感情はきっと違うんだろうと思っていた。でもその僕の考えは明藍に出会って割とすぐの頃に変化した。


自分のことよりも他者のことばかりを考え、他者のためだけに生きようとする。それが家族相手だったら人間にとって血の繋がりって特別だもんね、転生者といえど彼らが親で兄であることは変わらない。情を向けるのは十分だものね、で済む。でも彼女は違う。前世の遊びの中で思い入れのない登場人物であっても死んでほしくないと願い、彼らのためにできることはないかと考える事を止めなかった。そして成長した今は救いたい皆を救うために必要なことの中でも今の自分にできることから手を付け始めている。


風野明藍は僕が今まで自分のために動く人間ではなく、他人のために動く人間。いいや、違う。彼女は他人のためにしか動かなかった。彼女の前世の記憶を深くまで覗いた僕は知っている。彼女は実の両親に、家族にたくさん傷つけられてきた。傷を傷と思わないくらい、深く傷つけられてきた。一番身近な人間に付けられた傷は思っている以上に、自分が自覚しているよりもずっと深くなる傾向が人間達にはある。明藍――いや、前世の彼女もその例に当てはまる。それでも彼女は他者のためにしか動かない。自分の心の傷を自覚できていなくても自分を傷つけるものには本能的な恐怖が働いて遠ざける。彼女だってそうしていいはずだ。でも彼女は決して逃げない。絶対に救うことを諦めない。僕は不思議で仕方なかった。


どうして、君は努力を続けるの?

君が思い描いている彼らは家族でも知り合いでもなんでもない。今後縁を結ぶ可能性がない者達だってたくさんいる。君がいの一番に救いたいと願った義姉妹にも逢える保障はない。姿も見えない、人間達のためにどうしてそこまで努力をするの?


そんなに努力をしているのに、どうして君自身の姿を思い描けていないの?

君の前世は見た。やりたいことを片っ端から奪われていっぱい悲しんだ、いっぱい苦しんだ。でも今はそうじゃないじゃないか。君を受け入れてくれる者達がいることを痛いくらいに理解して彼らの未来を望んでいるのに、どうしてそこに君がいない。


君が思い描いている未来は君の願いの一つであって君自身の成りたい姿――夢じゃない。願いと夢は別物だ。描いた未来に自分の姿がない君がどうやって他者の未来を守るというの?君自身の未来を、一番見なくてはいけない君が見ないままでいれば、君の願いは何一つ叶わない。どうして、それに気づかない。


不思議に思っていた気持ちは実際に明藍が力の制御や勉強に取り組みだしてその様子を観察したのを境に苛立ちに変わっていた。

どうして、気づかない。このままじゃ、大変なことになってしまうかもしれないのに。

苛立ちと焦燥が入り混じり、今すぐ会いに行って言ってしまおうかと何度も思った。でもその度に僕は自分の使命と不干渉の掟を思い出して踏みとどまった。なにより自分の身勝手な気持ちを抱えながら明藍に会いに行って彼女に気持ちをぶつけて傷つけてしまえば前世の彼女を傷つけた人間達と同じになってしまう。それだけは我慢ならない。僕は彼女を傷つけたいわけじゃない。こうした葛藤を抱えているから、この数ヶ月間は同じ空間にいても姿は消して彼女の前に姿を見せず、そして人間の世界を観通せる水鏡を通して彼女の様子を観るに留めた。

観ないようにすればいいと思うかもしれない。確かにその通りだと思う。だけど努力を怠らない明藍の様子はどこか眩しく感じられ、目を離せなくなった。自分は彼女の守護精霊だから、と公的な理由をつけずとも彼女の様子を僕は観察していた。

そして今日も水鏡を通して絵本を読んで少しでも世界の文字を覚えようとする明藍の様子を観ていた――はずだったのに、気が付けば僕は久しぶりに彼女の前に姿を現していた。それからは……何が原因でああなってしまったのかはわからない。気がついたら明藍が倒れていて、丈成に睨みつけられていた。いつものようにと自分に言い聞かせ、理由をつけて神殿から戻ってくると仁王立ちをしたジンに出迎えられた。適当にジンの説教を聞き逃しているとアイオロス様が彼女の元に出向かれたと告げられた瞬間、頭が真っ白になった。アイオロス様が出向かれるほど明藍の精神状態が悪いということは最悪の場合、そのまま“狭間の世界”で審判を受けることになってしまう。自分の意思が原因で招かれたのではなく、僕に追い込まれたせいで彼女の運命が変わってしまうかもしれない。

禁を犯した、不干渉の掟を破った――精霊の世界の中での絶対的な効力を持っている決まり事を破った事より僕は明藍の運命を狂わせたことに動揺した。そしてジンの制止を振り切って水鏡まで急いで向かった。


小さな体を丸めて肩を震わせて泣く明藍にアイオロス様が擬態した彼女の未来の形である成長した風野明藍が寄り添っている。でも僕は知っている。アイオロス様は寄り添っていらっしゃるけれど、彼女自身に力を貸す気はない。アイオロス様が力をお貸しになるのは未来の風野明藍に支障が出ないようにするためであって、今の明藍の未来を想っての言葉じゃない。彼女の守護精霊として、追い詰めた張本人として彼女に何かしてあげたいのに僕には何もできない。アイオロス様がいらっしゃる明藍の夢の中は明藍が気づいていない間にもう、アイオロス様が支配する空間になっている。つまり、あの場で力を発揮できるのはアイオロス様と影響を受ける明藍しかいない。


《怖いなら、逃げていい。抱えきれないなら、切り捨てればいい。あなたにはその権利がある。あなたは神子。あなたが存在することこそが世界の幸福に繋がる。あなたは絶対に死んではならない。あなたを脅かす危険は排除されて当然なの。だってあなたの知る世界ではあなたの死が始まりだったのでしょう?あなたが生きているなら、未来はきっと変わる。だから、心配しなくても大丈夫》


アイオロス様の甘い囁きに僕は傷ついた明藍では抗えないと思った。だってアイオロス様の言葉を断る理由は彼女にはないし、傷ついた明藍が冷静に考える事はできない。――僕のせいで、彼女はアイオロス様の手を取ってお力を借りて僕の知る明藍じゃなくなる。自分の本当の望みに気づくことなくすべてを手放してしまう。そう、僕は諦めた。だけど明藍は、アイオロス様の手を取らなかった。彼女を支える家族の存在があと一歩のところで踏みとどまらせた。知らず知らずのうちに安堵の息を吐いていると踏みとどまった時に明藍が思い浮かべた存在に自分がいることを知って目を瞠った。


どうして?君をここまで追い込んだのは僕だ。知らなかった感情を律せなかった僕が君を追い詰め、その存在までも消しかねない事態を招いた。君は僕を恨んで当然だ。僕を憎んで当然だ。僕を罵って当然だ。それなのにどうして君は、僕を責めるどころか僕に感謝を伝えるんだ。どうして――。


「人間は儚くて脆くて、でもとても強くて美しいでしょう?」


清らかな空気が流れていることに気づいたのと声を掛けられたのはほぼ同時だった。反射的に視線を向けるといつの間にか隣にはアイオロス様がいらっしゃった。


「!アイオロス様。申し訳ありません。僕の弱さが今回のことを引き起こしてしまった。守るべき神子を傷つけ、あなたのお手も煩わせてしまった。とんだ失態です。いかなる罰も覚悟しています。かくなる上はこの命を以って――」


「シルフ。頭を上げてちょうだい。私はあなたに謝ってほしくてあなたに罪を認めさせたくて明藍に逢いに行ったわけじゃない。ただ見せたかっただけなの。人間の持つ可能性を」


膝をつき、深く頭を下げた僕の肩にアイオロス様の白くたおやかな手が乗せられる。それでも自分が仕出かしたことを思って顔を上げられなかった僕の名前をアイオロス様が穏やかな声で呼んだ。その声に恐る恐る顔を上げるとアイオロス様の瞳と目が合う。眼差しに込められた深い慈愛に言葉を失っているとアイオロス様がふわりと笑みを浮かべられた。


「あなたは今の人間の世界よりずっとずっと酷い世の中で生きる人間の姿を多く見ていたから、人間の根本は愚かさと脆弱さ――弱さで構成されていると思っている。だから、あなたは人間に興味を持たないし、期待もしない。でもそんなあなただからこそ、直向きに頑張る人間の姿から多くのことを感じ取ってくれると思った。だからあなたに明藍の守護精霊をお願いした。私の願い通り、あなたは直向きに頑張る明藍の姿からたくさんの感情を感じ取った。そして同じくらい、たくさんの感情を明藍に向けた。今回起きてしまった事態は確かに予想の範疇を超えていたけれど、あなた達が相互に良い影響を与えられていることがわかった。あなたが気づいてくれた感情があった。だから、今回の件で私があなたに罰を与えることはありません。その代わりに一つだけ、あなたに命令を下します」


「はっ。なんなりとお申し付けください」


「明藍の答えを聴いてあなたが感じ取ったことをそのまま行動に移しなさい。どんな行動であっても結構です。あなたの思うまま、好きに行動なさい」


「…」


「シルフ」


「御意」


命令の意図がわからず、言葉に詰まった僕の返事を急かすようにアイオロス様が名前を呼んだ。困惑しつつも返した返事を受け取ったアイオロス様は満足そうに微笑み、姿を消された。

一人になった僕は自分の仕出かした罪と向き合いながらアイオロス様のお言葉の真意を探ったけど、結局答えは出ず。そうこうしている内に目を覚ました明藍が丈成と言葉を交わして想いを通じ合わせた翌日、無意識に彼女に呼ばれた僕は彼女と対峙した。


明藍の答えを聴いて発した言葉はどれも僕の本音だった。でもそんな本音を彼女は笑顔で受け取りつつ、僕でも気づいていなかった感情を汲み取っては優しく渡してくれた。明藍の優しさからアイオロス様のように深い慈しみを感じられた。でも当然ながらアイオロス様より明藍は強くない。誰かにこの優しさが、温もりが踏み躙られ、蹂躙されることが恐ろしいと感じた。この温もりを、優しさを誰にも侵害されたくないと強く願った。そのために僕が明藍にできることは――悩んだのは一瞬だった。

守護精霊としてあなたを必ず守る。あなたと共に生きる。その誓いとして、右翼としての信頼をあなたに捧げる。


「ジン。君は僕に人間を知り尽くしていると言ったけど、そうじゃない。僕はまだまだ人間について知らないことがたくさんあった。僕が知っていたのは人間の側面だけだった。それを僕に教えてくれた明藍が大切で心から守りたいと思ったから、僕は彼女に祝福を授けた」


「納得できません。そんな感情論で神子に祝福を授けるなど、私は納得できない」


僕の答えを最後まで受け入れられないと言うようにジンは頭を振り、そのままアイオロス様にだけ挨拶をして立ち去った。アイオロス様は何も言わないまま僕を見つめていたけど最後にはふわりと微笑んでくださった。だから僕も感謝を込めて深く頭を下げた。

読了ありがとうございました。

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