弾む鼓動
ーーこんなのどーしろってーー
「イクト!」
5体の強力なグリーガーを目の前に、呆然と立ち尽くしてしまった幾渡に栗原は声をかける。
叫び声をあげたグリーガーは沈黙、体の節々が脆くなり地面に倒れ、細胞の崩壊が始まり雨に溶けていった。
残りの4体のグリーガーはいずれも武器を生成していて、腰を折って膝を曲げ攻撃の体勢をしている。
幾渡は武器を生成しようとするが光は集まりはするものの豆腐のように握ろうとすると崩れてしまう。
ーー落ち着け落ち着けよ俺!!守らないと、俺が、みんなをーー
4匹のグリーガーは沈黙したグリーガーを中心に四角を描くように立っていた。対角線にいるグリーガーの2匹が咆哮をあげると、つられて残りの2匹も咆哮をあげた。
幾渡は震えていた。敵に臆していた頃の記憶が怖れとなって脳から肌へ伝達していく。おぞましいカルテットが響く駐車場の上空をヘリが通過した。
その瞬間、空にキラリと光るものが現れ落ちてくる。
グリーガーに向かい落ちてきた円錐型の金属は先端を下にしてグリーガーたちを囲うように地面に突き刺さった。上面がグリーガーに向くように開くと、一秒も経たないうちにグリーガーたちは頭を抱え始めた。
上空を飛行していたヘリコプターはホバリングをはじめた。次々と特殊なアーマー、いわゆるパワードスーツを着た隊員たちが懸垂下降で幾渡たちの前に降りてきた。隊員たちは素早く扇状に展開し、武器を構える。その中に一人だけ異様に目立っていたのがヘルメットとグローブとインナーを淡い桜色に染めた小柄な隊員がいた。ヘルメットのスクリーンはスモークがかかっているため内側は見えないが身長や体格からして女性と思われる隊員は、幾渡達を一瞥してから目の前の所定の位置へ駆けて行った。
彼女が去ったすぐ後にアーマーは着ているがヘルメットはつけていない大柄な隊員が近づいてきた。男の身長は190センチはあり、体つきは大木のようにがっしりしている。彼は他の隊員と違い、耳にインカムが付いていて、アーマーの肩に3本線が入っている。
大柄の男がインカムを通して30人ほどいる隊員たちに指示を与えると、4人の隊員がグリーガーにガス弾を撃ち隊員たちは様子を伺いながら距離を詰めていく。大柄の男は数人を引き連れて幾渡たちの下へ来た。応急処置キットを片手に持った兵士が東城に簡易な治療をし始めた。ヒナも栗原の肩から隊員の肩に移され、駐車場から離れるように連れていかれる。大柄な隊員は栗原の肩をガッと掴んで口を開いた。
「心配したぞ。応援要請を受けた後、連絡がつかなくなったもんだから心臓が縮んじまった」
「戦闘の衝撃でマイクが壊れてしまった。それよりグリーガーは何分足止めできる?、ててぇ」
栗原は顔をしかめて肩を押さえる。
「個体差もあるが15分は抑えておける。クリエイターも間もなく到着するはずだ。5分もしないうちに到着するだろうから心配はいらない、この子たちを連れてモールの東口へ避難していてくれ」
大柄の男が周りにいる隊員に指示を出すと幾渡と栗原の隣に隊員が駆け寄ってきた。
大柄の男は幾渡に近づいて話しかけた。
「ここは我々に任せてくれ」
胸についている銀の小さいプレートには名前が書いてあった。銀の名札には難波吾郎と書いてあり、幾渡は聞いたことのある名前だと思い頭をひねったが思い出すことはできなかった。それでも考えていると、栗原に引っ張られ話しかけられた。
「幾渡、退くぞ。モールまで動けるか?」
栗原は「通信はこれを使え」と難波に言われ渡されたインカムを耳につけながら幾渡に質問した。
幾渡は頷き歩き出した。その時だった。大きな音がし、地面が揺れ、銃声が鳴り響き渡った。
幾渡が振り返ると1体のグリーガーを中心にコンクリートがひび割れており、そのグリーガーの片腕がコンクリートにめり込んでいた。
難波は他の隊員と連絡をとっている。
「1体動いただと!実弾使用の許可はある攻撃して沈黙させろ!あとWradの出力を上げろ!」
無数の銃弾がグリーガーを襲うが、グリーガーはひることなくコンクリートにめり込んでいない腕を振り上げる。2メートルほどある腕をすさまじい速さでコンクリートの地面に叩きつける。先ほどと同じ大きな音とコンクリートの破片が幾渡や隊員を襲った。
銃弾のように飛んでくるコンクリートの破片が幾渡の額に直撃した。幾渡は意識が飛びそうになるのをこらえたが、目眩に襲われ膝から崩れ落ちた。
グリーガーの周囲に展開されているポール型音響兵器Wradは囲まれた範囲内にいる生物の脳へダメージを与える。
「幾渡!幾渡!」
栗原は幾渡の肩を抱え、グリーガーから離れようとする。
ヘリコプターが頭上を通り抜けた。ヘリコプターから数人飛び降り、まっすぐにグリーガーに向けて滑空している。
1人は空中で銃器を構え、1人は巨大な斧を構えている。
武器の形成までの一連の動作を見る限り戦闘に慣れている人物が来たと予想した栗原は幾渡を連れて早足でモールの中に逃げ込んだ。
モールの中は数分前まで買い物をしていた時と全く異なっていた。屋根に穴が空きそこから雨が降り注ぎ、2階の通路が崩れ1階の通路を埋めている。店のマネキンや洋服がそこら中に散らばり、看板は倒れ液晶が粉々に散っている。そしてグリーガーに襲われた買い物客が何人も倒れている。中には中途半端にグリーガー化している者もいた。
先にモール内に入っていた東城とヒナと隊員がいた。
隊員は栗原たちに気がつくと近づき話しかけてきた。
「戦闘が始まったのですか!?」
「拘束していたグリーガーの1体が暴れだした。今はクリエイターが到着し戦っている。 それより東口には行かないのか」
「それが、通路が瓦礫で塞がってしまって。その先にグリーガーがいるみたいなので西口へ変更してもらったのですが、」
ドガン。
東口側の瓦礫が崩れ、グリーガーが現れた。