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求めるもの


いつの間に日光は雲に遮られ雨が降り始め、コンクリートは灰色から黒に変わっていく。


ーー約2メートルの人型、近距離タイプかーー


 幾渡は右手にライフルを形成しグリーガーに向かい歩いていく。

 幾渡のライフルの銃身には銃剣がついており、その風貌は第二次世界大戦で使用されていたライフルを模しているようにも見える。

 幾渡はグリーガーに近づきながら、東城、ヒナ、栗原を順に見た。憤怒の感情が表情にあらわになっていき、前のめり早歩きになりそして小走りへと変わっていった。


 グリーガーはヒナを離した。

 雨に濡れたコンクリートに、ヒナがドチャと落ちる。捕まれていた方の腕は小刻みに震えて指先がピクリとだけ動いた、反対の腕で必死に地面を這って進もうとしている。


 グリーガーの手に黒いモヤが集まっていく。

 両手に剣を形成したグリーガー。幾渡の覚悟が固まっていくにつれ瞳孔が開いていく。


 ーー全身に武装はできないけど、イケるーー


 幾渡は銃剣を構え、地面を蹴り、突きを放つ。

 グリーガーは左手の剣で弾き、右手の剣で斬りかかる。

 幾渡の肩周りに光が集まる、ラグビーボール大に集まった光が円筒状のジェットエンジンに変わった。高温の燃焼ガスを噴射し、グリーガーの攻撃をよける。ジェットエンジンを反転し、攻撃に転じた。

 攻撃と回避を繰り返すが幾渡の攻撃は流されて、はじかれて、しだいにグリーガーに攻撃パターンを読まれるようになっていた。


 ヒナとグリーガーの距離が開いたのを確認した幾渡は攻め方を変えた。

 幾渡の肩に形成されているジェットエンジンに再び光が集まり形が変わっていく。正面に穴が4つ空いている箱型の金属が2つ。8つのミサイルが発射される。4つがグリーガーに直撃、爆発したのち煙がグリーガーの視界を覆う。

 ミサイルの直撃を受けてもグリーガーは平然とし、剣を振るい煙を凪ぎ払った。

 切り裂いた煙の先に幾渡がいた。幾渡はグリーガーの胸部へ銃剣を突き刺す。

 幾渡の動きは一瞬だった。ミサイルを発射したのち再びブースターを形成した幾渡は煙に紛れグリーガーに高速で近づき、中腰の姿勢でグリーガーの懐へ入っていた。

グリーガーの胸部を狙い、上段突きを放ち、胸部に銃剣が突き刺さる。

 しかし、グリーガーは平然と剣を振り上げる。


 ーーこれでもくらって……ーー


 銃口が熱く光り、銃身が振動している。


 「ろっ!!」


 塞き止められていたものが出口を見つけ、光線となって一気に放出される。グリーガーの体を突き抜けた光線は上空へ高く続いた。


 グリーガーの胸部に大きく穴が空き、両手に形成されていた剣は燃え尽きた炭のように崩れていく。

 沈黙したグリーガーの目の前で、幾渡は息を切らして地面に膝を落とした。

 幾渡の形成した武器も全て光に戻り、消えた。

 息も切れ切れながら、グリーガーから目を離さない幾渡の顔に落胆の表情がかげる。


 ーー死んでないーー


 グリーガーは再生を始めているのか、穴が少しずつ塞がっていく。右手が動き、顔が上がる。右手の形が変わっていき、だんだんと幾渡の方へ伸びてくる。


 「ワ、ワタ、シ、バ、バショ」


 グリーガー何かを言っている。


 グリーガーの手が幾渡届く寸前、武装した東城がグリーガーの手を切り落とした。


 「本部承認確認。対象を特定指定グリーガーに認定。これよりAAレベルの処置を行います。」


 東城はチョーカーのマイクに触れながら喋っている。本部と交信できるチョーカーにはマイク機能のON-OFF機能があり、常時OFFの場合、マイクに触れることで会話することができるようになっている。


 チョーカーのスピーカーから音声が流れる。


 「本部了解。暴走に注意してください。目標の排除後、次の標的へ移動をお願いします。」


 女の人の声が途切れると東城はグリーガーに攻撃を続ける。左手に持っている大きい盾でグリーガーを突き飛ばす。


 東城の全身に纏った武装は西洋の甲冑を模した鎧を形成、そして肉体を強化する。


 全身への武装と肉体の強化、さらに武器の生成、消費エネルギーが多い。個人がコントロールすることができるエネルギー量をオーバーフローするとグリーガー化が始まってしまうため、クリエイターには基準値と限界値が定められている。


 基準値はクリエイターとして登録されている人間のみが越えられる力の値であり、一般人が許可なしに能力を使った場合、鎮静剤を打たれる。

 限界値、特定のクリエイターのみが越えられる値であり、戦闘において限界値を越える場合本部の承認が必要となる。承認無しに限界値を越えると力な麻酔を打たれる。


 東城は攻撃を加え続ける。

 グリーガーは東城の間合いから出ようとするが東城は常に踏み込みながら斬りかかる。

 踏み込むたびに地面が沈み、剣を振るたびに風が起きる。硬い外殻を持ったグリーガーの皮膚がボロボロと崩れ落ちていく。

 反撃の隙を与えなかった東城の動きが一瞬止まった。左手に持っていた盾が落ち、間合いからグリーガーが跳ねて遠退く。


 グリーガーは間合いをとったまま動かない。

 

 静寂が幾渡たちのいる駐車場を包むと背後が騒がしいことに気がついた。背後から悲鳴が聞こえる。


 「落ち着いて避難してください!!」


 従業員が叫んでいるが大勢の人々が出口に走ってくる。


 「おい、こっちにもいるぞ」「クリエイターだ!助けて!!」逃げ惑う人々はクリエイターの姿を見て助けを求める。


 東城は後ろを振り返るとショッピングモール内の人が溢れ出てきていた。ショッピングモールの奥では黒い煙があがっている。


 「危ない!」


 幾渡はグリーガーの異変に気づいた。

 グリーガーの体は沸騰しているかのようにボコボコと至るところが膨らんでいく。泡のように膨らんでは破裂し、膨んでは破裂しを繰り返しながらグリーガーの身体が大きくなっていく。

 一般の成人男性よりも少し大きめだったグリーガーの身体は1.5倍ほどに成長し、沸騰するような状泡のような膨らみがいくつも残っている状態で止まっている。


 そして、東城が止めを刺そうと勢いよく近づいた時だった。

 グリーガーの背中からいくつもの帯が飛び出て、空中を斬りながら空へと伸びていく。

 それの帯はカッターナイフに酷似していた。違うところは刃が黒く、そして刃が屈折する。

 10を超える帯状の刃は、蛇のような動きをしながら空へ上がっていったが10数メートルほど上がると地上へ降下し、そして地上を這うように進み東城に襲い掛かる。

 東城の左腕が宙を舞った。盾ごと貫かれ、左肩を刃が貫通したのだった。

 雨で濡れ、黒くなったアスファルトが今度は血でより黒く変色していく。東城の足元の赤黒い血だまりはぽっかりと穴が開いているように見えた。幾渡は走り出していた。

 数本の刃が蛇行しながら東城を追う。他の刃も空中を蛇行しながら幾渡やモールから出てきた人々へ襲い掛かる。

 片腕を切断されてもなお突き進んで行った東城はグリーガーの懐まで潜り込み、まるで野球のボールを投げるように剣を振った。剣術でいうところの袈裟切りのラインを描き、グリーガーの上半身を肩から脇腹にかけて両断し、東城は幾渡のすぐそばまで飛び退いた。


 グリーガーの動きが止まり、同時に帯状の刃も静止した。

 後ろから聞こえる人のざわめきと、ところどころから響いてくるサイレンの音、数キロ先からの爆発音。駐車場の戦闘が止まったことで様々な音が幾渡の耳に入ってくる。


 ーーここ以外でも戦闘がーー


 隣でガシャっと音をたてて東城は倒れた。幾渡は駆け寄る。


 「東城さん!大丈夫ですか」


 ヘルメットに阻まれて声が幾渡まで届かなかったのか、意識を失いかけているのか返答は聞こえなかった。東城の鎧や剣が光になって消えていく。

 幾渡は東城が呼吸をしているかを確認していると栗原が小走りで駆け寄ってきた。血まみれで片腕のない彼を見や否や動転して慌てている。


 「東城!東城!しっかりしろ、すぐに病院に連れてくからな」


 栗原は額から血を流していたが、シャツの袖で拭いながら振り返る。


 「イクト!ケガはないか?」


 幾渡は言葉には出さずに頷く。栗原は「そうか」というと立ち上がり、再び袖で血を拭いながら幾渡に話しかける。


 「幾渡、すまないが東城を頼む。周辺の警戒を怠るなよ、まだ何があるかわからん」


 と言って栗原は次にヒナの下に駆けて行き、うつぶせで倒れていたヒナを抱え起こして何か喋りかけている。

  

 辺りを見渡すと、沈黙したグリーガーが不気味に立っている。

 ヒナを起こした栗原は彼女を背負って幾渡の方へ歩いてきて、話しかけた。

 

 「ここから離れよう。本部に連絡して迎えを呼んだ。とにかくここは危険だ」


 栗原が振り向く直前に背後の不穏な動きに悪寒を感じた。

 アアアアアアアアアアッ

 グリーガーの咆哮が辺りに響く、数秒もたたないうちにモール内から大きな音をたてて屋根を突き破り高く飛び上がったグリーガーが幾渡達の前に降り立った。

 その数、4体。どれも先ほどまで戦っていたグリーガーとほぼ同じタイプに見えた。

沈黙したグリーガーの周りに集まった4体のグリーガーは赤黒く血で染まっていた。




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