表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

青春と暗雲

 

 湿気がコンクリートを湿らす、雨模様に夕日は隠されてしまい日の傾きは分からないが、学校帰りらしき少女たちが幾渡たちの横を通り過ぎて言った。

 

 「はっはっは、キラキラしてるね~~」


 栗原が少女たちを見て笑いながら言った。少女たちは幾渡たちの傍の自動販売機の前で立ち止まり財布を開いた。彼女たちの会話が聞こえてくる「10足りな~~い」「貸してあげるよ」「ありがと~~」少女たちの何気ない会話に、幾渡は新鮮にどこか懐かしい感じを感じていた。


 --そういえば、あの子に助けてもらったのに「ありがとう」って言ってなかったなーー


 落ち着かない様子の幾渡を見た栗原は踵を返して幾渡に近づく。

 栗原は幾渡に耳打ちをする。


 「女の子にはしっかり口でありがとうって伝えないとだめだぞ、2人にしてやるから勇気出せ」


 というと栗原は振り返り、東城に向かって「東城すまないが、少しだけ車を貸してもらえないか?」と叫ぶと東城は「いいですよ」と言いながら栗原に駆け寄り鍵を渡す。


 「すまんが、操作も教えてもらえないか?」


 栗原が鍵を受け取りながら言うと、東城は少し困惑した顔を見せたが「ぁぁあ」と納得した声を上げてから「いいですよ」と続けた。2人は少し離れたSUVの止まっているところへ歩き出した。

 幾渡はヒナと2人にさせられたことを迷惑だと言わんばかりに眉間にしわを寄せたが、心中で気恥ずかしさが少し薄れたことを実感し、彼女に近づいた。

 

 幾渡が話しかけるとヒナは俯きながら頷いた。

 幾渡が話しかけようとしたとき声が聞こえた。澄んでキレイな声。しかし小さくて何を言っているのか幾渡は聞き取ることができなかった。


 「え?」


 おもわず、聞き返しつつ聞き取ろうと近づいたところで可憐な少女は顔を上げた。

 白い肌が幾渡の目の前に広がる。整った顔による照れた笑顔は一瞬で幾渡の視線を奪った。


 「み、宮野 ヒナです。 これからよろしくお願いします」


 彼女の笑顔に見とれてしまう。曇り空のカーテンから太陽の光がスポットライトのように差し込む。

 天使を描いた絵のように神秘的で幻想的な美しさを目の前に幾人は言葉を失った幾渡はただただ手を前に伸ばした。



 一方、栗原と東城はSUVの前で真剣な面持ちで話を始めた。遠くで幾渡が手を伸ばしているのが見える。

 

 「今回の襲撃の件、やはり巨大グリーガーと関係しているんでしょうか」


 「分からんが、幾渡が能力をぶっ放した後日来客が現れた。タイミングを考えると、おびき出すための罠だったか、それともたまたまか。 いずれにせよ幾渡の外出時には、東城悪いが付き合ってやってくれ。」

  

 「ええ、それは構いませんが、もし、計画的に巨大グリーガーが放たれたとするならば」


 「悪い方向に考えるな、飯がまずくなるぞ。」

 

 栗原はうすら笑いをし、話を続けた。

 

 「ゆっくり飯を食べれる日はいつになるのか」


 「僕の考えすぎなのでしょうか」


 東城が呟くのを聞いたか聞かないかのタイミングで栗原が歩き始めた。その時、雨ではない"何か"が空から降ってくるのに気付いた東城は、叫ぼうとした。

 

 「!!」 


東城は栗原をかばう。



 少女の手は握り返されることを待ったまま空中で止まっている。握手のために幾渡も手を伸ばした瞬間、幾渡の背後で爆発音がした。

 

 ドガン!!!!!!!


 大きな揺れとともに爆音が響いて、熱風と衝撃が幾渡達を襲う。

 幾度が振り返る。正面に黒い煙が立ちこめる。2人の視線の先には燃え盛る炎と数台の炎上する車。数秒の沈黙の後に幾渡は叫んだ。


 「栗原さん!東城さん!」


 栗原が吹き飛ばされて倒れているのを見つけた幾渡は近づこうとしたがヒナに手を引かれた。

 煙の中から人型の影が近づいてくるのを確認したヒナは薬を取り出し、飲み込む。少女の瞳孔が大きくなる。

 黒い影が煙から出て、真っ黒な体に魚の鱗のような模様をあらわにしたグリーガーは真っすぐ幾渡たちの方へ歩いて行く。

 同じく煙の中から東城が出てくるとすでに能力を使っているらしく、西洋風の剣と盾を装備してグリーガーに向かって勢いよく跳びかかった。


 「ヒナ!!栗原さんを!!」


 1メートルほどある剣で切りかかっているが、グリーガーは腕でそれを受け止めている。

 ヒナは栗原の下へ駆けつけ彼を肩に担ぎ、幾渡の隣へ連れてきた。


「私が、私がやらないと」


 ヒナはそう呟くとグリーガーに向かっていった。

 幾渡は栗原に声をかけると、額から血を流している彼は朦朧と「大丈夫だ」と答えた。グリーガーの高い咆哮が響いた。振り向くと炎上するコンクリートの上で、火が灯る薙刀を振るヒナがグリーガーに一撃を加えようとしている瞬間だった。


 ーーいけ!!ーー


 幾渡は心の中に葛藤を宿しながら、二人を見守っていた。

 ヒナの一撃はあっけなく跳ね返され、グリーガーの蹴りがヒナの腹部に直撃する。

 東城も剣と盾を手にグリーガーに挑みかかるが、上手く形成できていない。東城も額から血を流しているところを見ると、頭を打っているせいか集中しきれていない様子だ。


 グリーガーの左手に黒い靄のような物質が集まると剣の形になった。しかし、それは剣と呼ぶにはあまりにいびつな形をしていて、黒かった。

 元々は人間であるグリーガーもクリエイターと同じように武器を形成できる。それはクリエイターと同じく、枠にとらわれはしない。しかし、人間性を失い、欲のみで動くグリーガーの武器は脆く、レパートリーは限られている。


 東城が立ち向かう。

 グリーガーは2メートル近い剣を軽々振ってくる。二つの刃が交差しあい東城が吹き飛ばされる。


 ーー強いーー


 幾渡は戦闘を見て思った。本来、グリーガーとなった人間は暴走を開始する。敵を認知することは少なく、立ちはだかるものに遮二無二突っ込んでいくようになる。ので、人間がうまく立ち回り、攻撃を繰り返せば倒せないことはない。

 しかし、今回のグリーガーは明らかに東城とヒナを敵とみなし、2人に背後を取られないよう立ち回り、そして反撃している。


 幾渡はそっと栗原から離れようとすると、手をつかまれた。


 「行くな。 あれは、お前を狙っている」


 「僕が、僕がいかないと!!」


 2人の会話の最中、近くに東城が吹き飛ばされてきた。グリーガーの攻撃を受けた彼の身体は相当疲弊していた。額から血がつたい落ち、衣服がところどころボロボロになっている。そして左腕が浅黒く変色している。


 「東城さん!!」


 幾渡はすぐに東城のもとへ駆けつけ、すぐに異変に気付いた。


 ーー浸食されているーー


 浸食、感染。グリーガーは瘴気のようなものを放つ。その瘴気は、能力の発動を促す効果があり、大小関わらず能力を持つ一般人が、瘴気に侵されるとグリーガーに変異しやすくなる。それはクリエイターも例外ではなく、訓練していても疲弊や困憊している場合にグリーガーに変異しやすくなっている。

 東城の左腕はその前兆があらわれていた。

 

 「東城さん、腕が」


 訓練を摘んできた東城が感染する可能性は疲弊していることを踏まえてもほとんどないはずである。しかし、グリーガーの瘴気の密度には個体差がある。


 ーーこいつ瘴気まで濃いのかーー

 

 幾渡はグリーガーを睨んだ。そして立ち上がると一歩づつ近づいていく。

 気を失いかけたヒナは左手を持たれ片手で吊り上げられている。

 

 --今、僕にできることーー


 唇をかみしめた幾渡の目の前で、グリーガーはニヤリと微笑んだように見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ