いつか会った日を
「なんで、薬打ったのに」
彼方の呟く声がインカム越しに聞こえた。
ヒナは槍をさらに形成しつつ攻撃を仕掛けてくる。幾渡は銃剣で薙ぎ払いつつ、狙撃で槍を撃ち落としヒナに接近を試みていた。薬を打ちこまれたヒナの動きは見るからに鈍くなっていた。
幾渡の背後で彼方が急に立ち上がり走り始め、幾渡の横を通り過ぎた。
彼方は手に持っていた空の容器を投げ捨て、腰についているマガジンケースから、投げ捨てた容器と同じステンレス製の容器を取り出した。
その様子を見ていた幾渡は彼女の引き留めようと手を伸ばし、声をかける。
「待って!何をしようと!」
「何って、一本で足りないならもう一回打つだけよ!止めないで!」
彼方は能力を発動して剣を作り出し槍を受け流しながら先に進もうとしている。
幾渡は彼方を見ながら銃剣を振り、飛んでくる槍を見ることなく叩き折った。
「今は無理だ!近づけない!」
彼方は振り返った。
「無理じゃないわ!彼女を!ヒナちゃんを助けたくないの!?」
槍が彼方のヘルメットをかすめた。衝撃でスクリーンが割れたヘルメットを彼方は乱暴に脱ぎ捨てる。
「止まっていたらチャンスはなくなる!!」
彼方は幾渡を睨みつけた。そして振り返りまた前に進もうとしたが幾渡に手を掴まれる。
幾渡の能力で周りに鉄の板が何枚も現れ、槍の進行を妨げる。
「離して!」
「…僕が行く。」
幾渡は容器を持っている彼女の手を握り、そっと彼女の手を開いた。幾渡は容器に手を重ねる。
「君とヒナは友達なんだろう?僕はそれを守ると約束するよ」
彼方の目から涙が一粒こぼれ落ちた。
2人の周りの鉄の板は槍が当たることで欠けたり、回転したりして光を様々な方向に反射させた。
幾渡は容器を握りしめた。
鉄の板の破片が拡散し、幾渡たちの周りの槍を撃ち落とし、光に変わる。
幾渡の肩に光が集まりジェットエンジンが形成され、幾渡は飛びだした。
低空飛行でヒナに近づく彼に槍が襲い掛かる。しかし、槍は彼の通ったところを示すかのように地面に刺さっていく。
「イクトっ!どうする気だ!」
インカムから栗原の声が聞こえる。
「宙へ向かいます!」
「なっ、何を!?」
幾渡は邪魔だと言わんばかりにそれだけを答えてインカムを投げ捨てた。
ヒナとの距離が縮まるにつれて幾渡の肩にはさらに光が集まり、ジェットエンジンの大きさが増していく。
ヒナも急接近してくる幾渡から身を守るように無数の槍を壁のように地面に突き立てる。
幾渡は盾のようなものを形成し減速することなく槍の壁に突っ込んだ。槍の壁を粉々に破り、壁の奥にいるヒナを抱きしめ空へと方向を変えて急上昇を始めた。
幾渡の腕の中では、もはや人ではないヒナが暴れる。
ヒナは手に小型の槍を形成して幾渡を刺す。
「い゛っけェッーーーーーーーー」
急上昇による負荷でもはや上がり続けることしかできない幾渡は必死に能力を維持する。
酸素が薄くなることにより幾渡の身体に異変が起き始める。それはヒナも同じであった。
能力の維持が難しくなる中で幾渡はヘルメットを創るべきだったと後悔している。
頭がボーっとしてくる中でデジャヴが起きる。
身体に火傷を負いながら華奢なグリーガーを胸に抱え上空へ向かう映像が頭に流れる。
--なんだ今の。ーー
悪寒が体を走った。すでに航空機が往来するほどの高度。寒気はあったが幾渡が感じたのはそれとは違う不気味な寒気である。
初めて試すはずの現状況。地面から足が離れる際にあった不安は確かに初めて行うことに関しての恐怖であった。だが、妙にリアルなデジャヴに気味悪く思う。
すでに低酸素による症状が出ていた。幾渡はジェット噴射を止め、ヒナの首に注射を打ち込んだ。
2人は落ちていく。
グリーガー化していた部位がヒナの皮膚から剥がれ落ちていく。
ーー成功したーー
ホッとしたのも束の間である。自分の状況を把握した幾渡は焦り始めるものの能力はうまく発動せず、体温は下がり体の感覚が無くなっていく。瞼が下がっていく。
ヒナを掴もうと手を伸ばすものの、意識が遠退いていく。
能力を酷使したせいか深い眠りに落ちるように空の上で意識を失った。
「あの時泣いてなんかいないわ、私は強いの。だから……だから次は私が守る。」




