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崩れた刃


 崩れた壁からグリーガーが1体顔を覗かせた。外にいるグリーガーとは外見が違いゾンビ染みている。体は青みを帯び、頭からは金髪を生やしていて、両手は原型をとどめておらず関節がいくつもあるように曲がっている。手の形が鎌のように変わっており、太ももが喰いちぎられたように大きく欠損している。


 「まずいぞ、ここの戦いの生き残りだ」


 幾渡たちの周囲には普通の人間のほかに細胞の崩壊が始まったグリーガーや半身がグリーガー化している人なども倒れていた。グリーガー同士が争うことは珍しくない。瘴気を発するグリーガーの周りで人々がグリーガー化し、そのまま戦闘になり被害が大きくなるケースも多々ある。まさにモール内ではグリーガー同士の戦いが起きたようであった。


 「私、戦えます」

 

 ヒナが起き上がる。左腕をダランと垂らしたヒナはとても戦える姿には見えなかった。

 幾渡は頭に包帯をグッと巻き付け能力を発動させた。両手に光を集め旧モデルのハンドガンを2丁形成する。


 --震えは、止まってる。呼吸も落ち着いたーー


 ヒナは幾渡が能力を発動したことに気が付いた。幾渡は息を吸って言葉を発する。


 「俺がやる」

 

 「ダメ、私がたたかっ」


 ヒナが口を開いた瞬間、グリーガーが幾渡たちの存在に気付く。頬から歯茎が覗いている口を裂けるほどに頬笑んだグリーガーが咆哮を上げる。


 「早く西口へ!!!」


 幾渡がそう叫んだ瞬間グリーガーは欠損していない片方の足を大きく曲げ跳びかかってきた。

 鎌型の手を使い4足歩行に似た姿勢でジグザグに走り迫るグリーガーに連射するがグリーガーは被弾しても距離を詰めてくる。大きく口を開き噛みつこうとするグリーガーにさらに銃弾を浴びせる。

 

 「うオォォォ-オオーーーー」


 1発がグリーガーの右目から入り脳へ達すると、グリーガーは背骨を反らせ大きく跳び退いた。グリーガーが距離をとった確認した幾渡は更に猛攻する。右手に持っていたハンドガンが光に変わり拡散すると再び幾渡の右手に集まりライフルの形を形成し始めた。現役時代からの幾渡のメインウェポンである銃剣付きのライフルはオールドスタイルながら中近距離戦闘で幾渡が最も得意とする武器である。

 右手でライフルのトリガーを、ハンドガンは持ったまま左手の甲と手首で支え、グリーガーに狙いを定める。

 グリーガーは距離をとった後、頭を前後左右に振り乱している。


 幾渡がライフルの引き金をひく。7.62ミリ弾がグリーガーの膝を、肩を、肺を砕いた。

 

 狙いをグリーガーの頭部に変えた時、幾渡に眩暈が起きた。デジャヴが起こったのだ。

 ライフルを向けているのはかつての仲間であり半身がグリーガー化し苦しんでいる。

 幾渡を見つめ「殺して」と呟いている。

 記憶にない光景が脳の奥からにじみ出てくる。目の前でグリーガーと化していく仲間にライフルを構える手は汗ばみ震え、目の周りの筋肉が痙攣し眼球が震え、心臓にエンジンでも摘んでいるかのように脈打つ。

 過去の仲間であった宮野飛鳥は幾渡と同い年であり彼女は交通事故で亡くなっていた。


 ーーなんだよ、今の。飛鳥は、飛鳥は交通事故で死んだはずーー


 強烈な不快感が精神の安定を阻害し、能力で形成していたライフルとハンドガンを崩壊させた。

リアルなデジャヴが幾渡に嘔吐を催させる。


 動きの止まった幾渡に狂乱状態のグリーガーが猛進してくる。

 幾渡はこめかみを押さえながら足に力を込め再度ライフルを形成した。

 光は先ほどより10インチほど長く集まり、形成されたライフルの先には銃剣が取り付けられていた。

ドンッと突きだしたライフルに飛び込むようにグリーガーは襲いかかった。幾渡の肩に噛みついたもののグリーガーの腹部にはしっかりと銃剣が突き刺さった。

 幾渡は苦痛の表情を浮かべながら銃剣を引き抜き、グリーガーの喉を狙いもう一度突きを繰り出した時、外から爆音とともに壁を壊し現れ"何か"が幾渡の鼻先をかすめていった。

 ゾンビグリーガーは崩れた壁の反対側に叩きつけられ沈黙し動かなくなる。壁を打ち砕いて中に入ってきた黒い影はのそっと立ち上がり幾渡の方を見る。外で暴れていたグリーガーの1体である。

 オオオオオオーー

と咆哮を上げ、全力で幾渡に突っ込んできた。

 幾渡は右に跳びグリーガーをかわそうとしたが、グリーガーは幾渡の動きに合わせて移動しタックルを当ててくる。

 グリーガーの攻撃が直撃し、幾渡は弧を描きながら大きく吹き飛ばされた。

追撃の構えをとっているグリーガーを見たヒナは能力を使う。

 ヒナは槍を形成しグリーガーに立ち向かうものの、グリーガーが腕を振るいヒナを近づけさせない。ヒナは焦りの中、攻撃を繰り返していたがカウンターを受けて退けられた。

吹き飛ばされ地面を横滑りした幾渡が起き上がるとグリーガーは地面を蹴りつけ腕を振り上げ攻撃する。


ーーしぬっーー


幾渡の脳に死への恐怖が過った。


「アアアアーーーッッ!!」


ヒナが叫び声をあげると無数の槍が宙を舞いグリーガーの身体に突き刺さっていく。グリーガーは高速で飛んでくる槍の勢いに飲まれ壁に叩きつけられた。


「イクト君に、イクト君に手を出すなっ!!」


容赦なく無慈悲に槍をグリーガーに突き立てるヒナの顔は鬼の形相である。隙間なく突き刺さった槍は針鼠の背中のようになっていた。


無数の槍が襲いかかってきたグリーガーの身体は槍の山に埋もれ見えなくなっていた。


槍が光になって消えると無惨な塊だけが残り、壁は穴だらけになっていて外の光と雨が中に入ってきていた。

ヒナが頭を抱え始めた。


「ヒナっ!」


頭を抱えるヒナに駆け寄ろうとするとデジャヴが起きた。

頭を抱えているヒナに飛鳥が被って見えた。幾渡は強く目をつぶり頭を左右に軽く振るう。

幾渡はヒナに駆け寄って声をかける。


「しっかりして!無茶苦茶しすぎだよ」


「でも、イクト君を助けれるのは私しかいなかったから」


良好とは言えない体調の中、笑顔を無理に作る彼女の肩を支えるもののヒナはガクガクと震え始め、足が無くなったかのように膝から崩れ落ちた。

次の瞬間、ヒナの左肩から黒い翼が生えて左腕がグリーガー特有の黒みを帯始めた。




 

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