集団転移
なんら変わりない日常だった。
キーンコーンカーンコーン
いつも通りの定時を告げる鐘の音。昼飯買いにいかないとなー、ふと気を抜いた瞬間だ。
始まりは一瞬だ。一つ瞬きをし、一つ呼吸をすると始まっていた。
「は?わけわかんねぇよ!どこだよここ!」
「おいぃぃふざけんな!」
「どうなっちゃうの?帰してよぉ!!」
クラスメイトの悲痛な叫びが聞こえてくる。つい1分前だ。多分1分くらい。気づいたらベッドの上に寝ていた。知らない天井。財布やら携帯、着ていた衣服は没収され今は白い病衣を身に纏っているだけだ。そして見慣れたクラスの面々。だがその数は半数だった。だがそんなことを考えている余裕もなかった。なぜなら、なによりも俺たちを混乱させている原因が目の前にいるからだ。それはまるで獣のようなフサフサとした獣毛を体に纏い、そしてまるで獣のような牙を持ち、そしてそしてまるで獣のような爪を携えており、そしてそしてそしてまるで人間のような図体をしていた
・・・そう、つまりは獣人というべきなのだろう存在がいた。信じられないが今はそう理解するしかないのだろう。それらはこちらを見て鬱陶しそうにしている。やつらも病衣を着て、ベッドの上にいることからここは病院だと推測できる。ただし元いた世界ではないことも推測できた。なんていったって得体の知れない生き物が目の前にいるのだもの。と、ここまで現状を把握しようやく実感が湧いてきた。異世界転生だ!俺が日々妄想を繰り広げていた異世界が今目の前にィ!
「うおおおおおおおお!!」
気づくと悲痛な叫びをあげるクラスメイトそっちのけで雄叫びを上げていた。場は静まり返った。そしてクラスメイト達は俺に注目を向けぽかんと不意打ちでも食らったかのような顔で俺をみてきた。そしてその顔は次第に嫌悪や侮蔑を混ぜた顔へと変貌した。
「あいつどうした?笑」
「あんなキャラだったの?笑」
聞こえるぐらいの音量でヒソヒソと話す声が聞こえる。そしてクラスメイトの1人がこう言い放った。
「キモいから黙っててくれる?」
「・・・ごめんなさい泣」
すごく小さな声で俺は言いその場で縮こまる。
やっちまった。夢見た異世界転生でついテンション上がって慣れない真似しちまった。自慢でもないが、俺はいじめられっ子だ。原因はなんてこともないこと。ただ俺がキモいらしい。コミュ障なのだ、俺は。奴らが好まないものは爪弾きにあう。そして奴らのいじめからの逃げ道としてアニメ、ゲーム、漫画もろもろにのめり込んだ。結果、あいつらの俺への印象はより最悪なものとなった。友と呼べるものはもちろん1人もいない。普通クラスには俺みたいな人種が何人かいるものだが、、、神までもが俺を好まないらしい。そんな不運な俺の不運ヒストリーに新たに一つ不運が追加された。それはなぜか奴らも一緒に転生していることだ。先程は転生だ!と舞い上がってたが、奴らもいるじゃねぇか。集団で異世界なんてあまり聞かないよ??てか初めて聞いたよ!異世界に来てまで俺は負け犬なのか?でしゃばったら打たれるよ?出る杭は打たれるよ?
、、、終わった俺の異世界転生・・・
俺が思考を繰り広げている中奴らはいまだに騒ぎ続けているようだ。せわしないやつらd
ドゴォォォォ!!!!
「うるせぇぞぉ!若造どもがぁ!」
壮大なる壁ドンとともに怒号が鳴り響く。
その瞬間その場にいる全員が固まった。声の主は先程から俺たちを混乱させている原因の獣人の中の1人だった。他の獣人と比べるとだいぶ強面な狼さんは先程の怒号から一転冷たく言い放った。
「ここは病室だ。静かにしろ。」
皆完全にびびってしまった。中には半端泣き顔のやつもいる。かくいう俺もそうなのだが・・・
「おいおいギャロン、そりゃあないだろう?タチの悪い狼さんだよそれじゃあ。この子達完全にびびっちまってるよ」
隣にいたもう1人の狼の獣人が状況を察してどうにかしようとなだめるべく口を開いた。
「すまんなぁ君たち、驚かせてしまって。ギャロンはこの前の遠征で手柄を取られた上に怪我をしてしまってねぇ、気が立ってるのさ」「言うな」
良かった・・・怖い人だけじゃなかったようだ。優しい狼さんありがとう。俺たちは安堵し、そして俺たちの中の1人が助けを求めた。
「助けてください!私たち気づいたらここにいて・・・もうなにもかもわけがわからなくて・・・」
いま助けを求めた奴はクラスの積極的な、まあいわゆる意識高い系の女子の1人だ。意識高い系はその持ち前の意識の高さで普段はイラっとするがこんな状況ではむしろありがたい。
ニマァ。
優しい狼さんは不気味な笑みを浮かべた。「お前の方がタチ悪いだろ」
ギャロンがそういうのを俺は聞き逃さなかった。
「お嬢ちゃん、どうかなぁ、情報教える代わりにちょっとこっち来て俺について来てもらってもええか?特にどうということはないねん。ついて来てもらうだけやから。ん〜そこのお嬢ちゃんも一緒に来てくれると助かるんやけど」優しい狼さんが指名をしたのはクラスで一番可愛いマドンナ的存在の女子だ。いやまて、なにが優しい狼さんだ。下心見え見えじゃねぇか。前言撤回。こいつはゲロ以下の匂いプンプン狼さんだ。と、そんな俺の思考を遮るように意地悪い狼さんがグイッ、とマドンナ女子の細い二の腕を掴む。
「きゃっ、、やめt」
ドルクシャァァァ!!!!
刹那、どデカイなかなか表しにくい効果音と共に狼さんが吹っ飛んだ。狼さんはそのまま壁に叩きつけられ頭からもろに打撃をくらい白目を剥いた。
・・・は?その場のもの全員の思考が停止しまっているようだった。あのか細く可憐なマドンナ女子が凶悪で卑劣な狼さんを吹っ飛ばしたのだ。考えられないが、現実起こったのだ。
「え?・・・え?」
どうやら当の本人が一番わけがわかっていない様子だ。
「あ、あんた達・・・まさか、あの部隊の人達か?」
優しい方の狼さんが驚いたように目を丸くしてそう言った。それに続けて狼さんは謝罪をしてきた。
「すまない。俺に免じて馬鹿なあいつを許してくれ。この通りだ。」
ギャロンは腰を綺麗に90度曲げて謝罪の意を示した。
「ど、どういうことですか?」
異世界に来ても学級委員としての誇りがあったのだろうかないのだろうか、先陣をきって学級委員くんが言った。
「?どうもこうもお前らはあの特殊部隊の所属じゃないのか?」
皆は目を見合わせた。
「い、いや僕たちはここに来たのはさっきで・・・というかこの世界にきたのがはじっうぐっ!?んんんん!!」
「い、いやぁ俺たちこの前の戦いで記憶を無くしてしまったみたいで、それで入院しているんです。」
委員長が察したのか、事実を言いかけたクラスメイトを黙らせながらとっさに嘘をつく。よくあんなにすぐ機転が効くものだ、と俺も感心をしてしまった。
「それって何かの呪いか?いや、この現状で考えてもしょうがないな。この場で呪いをとけるやつもいなさそうだしな。俺が色々教えてやるよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
委員長が代表してギャロンと話している。
「つまりは俺たちはなんとか傭兵団のエリート部隊ってことか。そして1人1つ固有のスキル、ユニークスキルを持っていると。」
「あぁ、そうだ。」
「では、あなたが私たちのことが分かったのは、先程百華があなたの仲間を吹っ飛ばした時のユニークスキルということですか。」
「あぁ、そうだ。」ギャロンは吹っ飛ばされた仲間を呆れた目で見ながら言った。
「ですが、どうやってユニークスキルだということを見分けたのですか?」
「いや、スキルを見分けたなんてそんな大そうなもんじゃねぇよ。さっきも言ったが、ユニークスキルってのはお前ら自身のオリジナル技、この世で1人しか使えねぇ技だ。俺も戦場でお前らのスキルを見たことがあってよ。それで分かったんだ。つっても、お前らはいつも戦場では仮面をして顔を隠してるから、顔での判別は出来なかったがな。」
うん、なるほど理解してきたぞ。きっと、神は俺のこと嫌いなんだろうから俺だけ酷いユニークスキルなんだろうな。そして委員長みたいなやつがチートスキルを持つんだろう?うんうんわかってるさ。そういうもんだよね。逆にフラグを立てといた。これでチートスキルは俺のもんだね。うんうん。
「では、僕たちがどういうユニークスキルを持ってるか判別する方法はありますか?」
「あぁーそれは無理だな。持ってるスキルを鑑定するスキルなんてのも聞いたことねぇし。スキルは人それぞれの感覚的に出すもんだ。最初スキルを得た時に神の神託を受け取れるんだが、それ以降不思議なことに体が勝手に使えるようになるもんなんだ。神の神託で得たものが記憶失くすと一緒に失くしちまうのかどうなのかは分からんが、現状にいちゃん達がスキルを使えそうに見えないし、スキルを使うのは少しきびしぃかもしれんなぁ。さっきの嬢ちゃんは自分を守ろうとしてたまたま感覚的に出たんだろうな。攻撃系スキルなら自衛のためにたまたま出るなんてこともあるかも知れんがもっと複雑なスキルになってくると難しいんじゃねぇか?まあ俺もスキルについて詳しいわけじゃねぇからわかんねぇがな。まあ自分のスキルが何かの拍子に発動することを願うしかねぇな」
「そうですか。スキルを使えれば状況が良くなると思ったんですが。これは厳しいですね。」
スキルの話も聞け状況は良くならないが現状を徐々に理解しみなが落ち着きを取り戻した頃、最も大きな問題がでてくる。ギャロンの口ぶりからここにいる全員がこの世界に来る前からこの世界に存在していたということがわかった。元の世界の記憶はある。こちらの世界の記憶はない。やはり転生したと考えるのが一番無難だ。しかし、だとすると転生前の俺たちについて説明がつかない。他にあり得るのは・・・元の世界の記憶というのは、何者かによって見させられていた幻覚、または夢などのものだった、つまりもともと俺たちはここの世界の住人だった、とか。この他にもまだ色々考えられるだろう。キリがないくらいだ。だが、なんにしようとも何者か、転生させた者、または幻覚を見せたもの、はたまた神か悪魔かの力が働いていることには違いない。だが今この状況でこれらの疑問を解消し、元の世界に帰る術は何もない。これからも無いかもしれない。今はただ、多くの疑問を抱えたままこの世界に順応し、生きていく他ない。